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【セミナーレポート(2015.7.21)】東京オリンピック・パラリンピックの成功のために、私たちができることとは? スポーツボランティアの理想と現実<中編>

2015年10月21日 インタビュー Written by 管理者

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 東京オリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)の成功のために、私たちができることの一つに、ボランティアが挙げられる。

 東京オリパラでは約8万人のボランティアが必要だといわれているが、そのマネジメント手法が確立されているとはいえないのが現状だ。どのようにボランティアを運営することが必要なのか? 東京オリパラをきっかけに、スポーツボランティアが定着するためには、何が重要なのだろうか?

  7月21日、NPO法人日本スポーツボランティアネットワーク(以下、JSVN)の事務局である但野秀信氏と、一般社団法人PARACUPの代表理事、森村ゆき氏をゲストに迎えたセミナー、「スポーツボランティアの理想と現実」(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:株式会社フォトクリエイト 3階セミナールーム)の内容を振り返りながら、あらためてボランティアの実情と今後について考察しているこのシリーズ。

 前回は但野氏による「スポーツボランティアの実際」をお届けした。今回は、10年以上にわたってスポーツボランティア活動に関わってきた森村氏による講演「第2部 スポーツボランティア運営の実際」をお届けしよう。(前編はこちら⇒)

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■きっかけはホノルルマラソン

 皆さん、こんばんわ。私自身、10年以上スポーツボランティア活動に関わっていますので、これまでどのようにスポーツボランティア団体の運営をしてきたのか、そのようなテーマでお話したいと思います。

 私は現在、PARACUPという、世界の子どもたちを支援することを目的に開催しているチャリティーマラソン大会の運営をしています。最初は私たちがボランティアで開催していましたが、規模が大きくなってきたことに伴い、一般社団法人PARACUPを設立しました。法人化した今でも、スタッフ全員がボランティアで活動しています。私も普段別の仕事をしながら、平日の夜や休日などの空いている時間を使って、一般社団法人PARACUPの活動をしています。

 きっかけは、2004年12月にホノルルマラソンに参加し、人生初のフルマラソンを体験したことです。完走後にとても強い感動を覚えまして、もっと気軽に参加できるマラソン大会が日本にもあればいいなと思うようになりました。当時フィリピンの子どもたちをサポートするチャリティー団体に所属していたので、走ることとチャリティーが一つになったマラソン大会を企画しようと思い立ったのが、PARACUPの始まりです。

 PARACUPは、一般社団法人PARACUPと複数のNPO/NGO団体との共催という形で、企画・運営をしています。子どもを支援している団体と一緒に大会をつくりながら、生まれた収益をこうした団体を通じて、世界中の子どものための寄付に回しています。これまでの累計の寄付金額は約7000万円で、フィリピン、カンボジア、タイといったアジアを中心に、アフリカにも送られています。12年からは東北の復興支援を目的として、PARACUP仙台という東北復興支援を目的としたリレーマラソン大会も開催しています。ここで集めたお金は主に震災遺児孤児奨学金支給基金をはじめ、子どもたちをサポートする活動へ寄付しています。

 05年に、江ノ島で第1回大会を開催しました。ホノルル帰りということで、海の近くがいいという理由です。初めての開催ということで手探り感が強かったですが、約400人のランナーが集まり、目標としていた100万円の寄付金額を達成することもできましたし、何よりも参加者全員が無事にケガもなく終えることができました。

 当時は特に継続して開催することは考えていなかったのですが、参加者から「来年も参加するね」と言われたことがきっかけで、翌年も開催することを決めました。第2回大会は約1000人のランナーが参加し、165万円の寄付金を集めることができました。その後は、ちょうど07年に東京マラソンが始まったことで巻き起こったマラソンブームのおかげもあり、大会を開催するたびに参加人数は2000人、2500人、3300人と順調に伸びてきました。現在は川崎市の多摩川河川敷で開催しており、約5000人の参加人数で、約800万円の寄付をしています。

■「喜ばれる喜び」がPARACUPのコンセプト

 第1回大会は、約50人のボランティアが参加しました。私たちのスタッフだけでなく、友達にもお願いして参加してもらっていましたが、大会が終わった後、「友達だからハッキリ伝えておきたいけど、もう二度と参加しない」と言われました。

 理由を聞くと、「訳も分からず立たされているだけだった」ということでした。彼女には矢印のラミネートを持って立つという“誘導”をやってもらっていました。コースマップも無く、それ以上の説明も無かったためただ立っているしかなく、ランナーから質問をされても何も答えることもできなかったということでした。また、参加したボランティアにはボランティア用のTシャツや名札を配布していたのですが、彼女にはどちらも渡すことができていませんでした。彼女は友達として、何も分からないまでもどうにか協力しようとしてくれていたのですが、他のボランティアスタッフが忙しそうにしていて質問しようにも相手にしてもらえなかったということもあったようです。この出来事には正直ショックを受けて、しばらくは物を考えられませんでしたが、第2回大会を開催することを決めていましたので、事務局メンバーとこのことを共有し、この反省を次に生かすための話し合いをすることにしました。

 私自身も事務局メンバーも、全員がこの大会にボランティアとして活動していました。「なぜ私たちはボランティア活動をしているのか」を徹底的に話し合い、出した結論は、自分たちが子どもたちの支援をしている中で、喜ばれていると感じることがうれしい、人が喜んでいる姿が自分の喜びにつながっている、という「喜ばれる喜び」でした。これをPARACUPのコンセプトとし、第2回大会以降ぶれることなく継続して今に至ります。こうしたコンセプトを形にするために、どのような施策を立ててきたのか紹介したいと思います。

 まずは、ランナーのゼッケンにニックネームを付けたことです。ランナーが応援される喜びのためという理由ももちろんありますが、それだけでなくランナーを応援する喜びをボランティアに感じてほしいという思いから始めました。ニックネームを付けたゼッケンを着ることで「○○さん、がんばって!」と声を掛けやすくなり、実際に名前を呼ばれて応援されたランナーが、「ありがとう」と返してくれたりハイタッチをしてくれたりと、ボランティアにとって参加者と触れ合えるという喜びになっています。またボランティアにもニックネーム入りのゼッケンや名札を付けてもらい、スタッフやボランティア同士でも名前を呼び合えるようにしています。今では一般的になりましたが、当時としてはかなり画期的な施策だったと思います。

 また、大会の最後の締めに、ボランティア感謝式を実施しています。ランナーからボランティアへ感謝の気持ちを伝えてもらったり、ボランティア同士でたたえ合うようにして、「喜ばれる喜び」を感じてもらえる場を用意しています。

 他にも、ボランティアスタッフのことを考えるチームとして、“ボラスタチーム”を設置しています。私たちにとってお客様はランナーではありますが、それと同時にボランティアもお客様だと考えています。お客様(ボランティア)満足度を上げるため、イベント中にボランティアに積極的に声を掛け、あめやチョコを配ったり、普段からボランティアの満足度を高めるための施策を考えています。

■ボランティア運営にはいくつかの大事なポイントがある

 これまでの経験から、ボランティア運営にはいくつかのポイントがあると考えています。それをお伝えしたいと思います。

 一番大事なことは、イベントの主旨や目的、ビジョンをしっかりと伝えるということです。「なぜボランティアに参加してほしいと考えているのか」、さらには「なぜこのイベントをやるのか」。PARACUPの場合、世界の子どもたちたちに寄付金をより多く送りたいという目的があります。イベント運営のコストをできる限り下げることができれば、より多くのお金を届けることができるので、そのために協力してほしいという目的を、ボランティアに伝えるようにしています。第1部の但野さんの話にもありましたが、ロンドンオリパラでは主催者側のメッセージをいろんな場面で伝えていたからこそ、あれだけの成功を収めたものだと思います。

 2つ目は、感謝の気持ちを伝えることです。それは言葉で伝えることでもいいですし、予算の都合がつくのであれば、感謝状などの形にすることでもいいと思います。方法は何でもよく、大事なことはしっかりと「ありがとう」の気持ちを伝えることです。大会が終わると、無事に開催できたという喜びでついうっかり忘れがちではありますが、その陰には多くの人に関わって支えてもらったということを肝に銘じる必要があるでしょう。

 3つ目は、誰にとっても分かりやすい案内をすることです。ボランティアにはいろいろな方が参加されます。特に多くのボランティアをコーディネートする場合、この程度のことは分かるだろうと思うことであっても、誤解されて伝わっていくということがありますので、誰にとっても“分かりやすい”ことが大事になってきます。

 4つ目は、ボランティアに楽しんでもらうという姿勢です。例えば、駅での誘導をお願いする場合、ガイドブックがあればそれをもとにボランティアが参加者と会話できるようになります。前出のニックネーム入りのゼッケンもそうですし、例えば応援グッズを用意したり、みんなで作ってみてもいいかもしれません。こうしたツールを用意したり、楽しみ方のちょっとしたエッセンスを伝えるなど、楽しんでもらおうという主催者側の気持ちが大事だと思います。

 5つ目は、やる気を大事にすることです。ボランティアに参加する人は、基本的にやる気に満ちています。なかには自分がやりたいことを伝えてくる人や、自分の能力や経験を生かしたいという人も多くいます。そういう時に、「それはボランティアの仕事ではありません」などと線引きせず、可能であれば、役割を与えて活躍してもらうということもとても大事だと感じます。お願いされたり役割を任された方が、頼られていると感じてうれしいと考えたり、ボランティア活動を通じて成長につながると考えているボランティアはとても多いように感じます。

 6つ目は、ボランティアと積極的にコミュニケーションを取ることです。それは楽しんでもらうことであったり不安にさせないという目的もありますが、仲良くなることができれば、率直な意見や問題点を出してくれることにもつながるからです。極端な言い方をすると、腹を割って話すことです。

■ボランティアが大会の成否を決める

 今までに運営してきたマラソン大会でランナーにアンケートを取って分かったことは、お客様の満足度が高くなる理由の多くが「ボランティアの対応がいい」ことだということです。大会の質や人気を決めるのは、ボランティアの力によるものだと私は考えています。主催者がどれだけ面白い企画を考えたとしても、実際に参加者と接しているボランティアの対応が悪ければ台無しになります。逆にボランティアの対応が良ければ、参加者も楽しかったと感じ、人気もどんどん上がるようになります。

 ボランティアでも慣れている人は、「なぜこのイベントはボランティアに参加してほしいと考えているのか」を見ています。ただ単にスタッフが足りないから無償の労働力としてボランティアを使っているのか、それとも、イベントの主旨や目的をかなえるためにボランティアの力を必要としてくれているのか。こうした主催者側の思いは伝わっていると感じます。主催者側がイベントの主旨や目的を説明することなどによって、ボランティアとの間に信頼関係が構築されると、ボランティアもその意図をくんで、一緒にイベントをつくろうとしてくれます。

 ボランティア活動をしている人は、大会を一緒につくったんだということを誇りに思っている方がとても多いです。こうしたボランティアの思いを軸にしてボランティア運営を考えていけるようになれば、日本のスポーツボランティアがもっと盛り上がっていくのではないかと思います。

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 次回は、但野氏と森村氏によるトークセッションをお届けする。ボランティアのあり方について、より深く考察していきたい。

<後編はこちら>

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<講師プロフィール>
森村ゆき(もりむら・ゆき)
一般社団法人PARACUP 代表理事
(http://www.paracup.info/)

2005年、ホノルルマラソン完走をきっかけに友人たちと立ち上げた『PARACUP~世界の子どもたちに贈るRUN~』は、参加者5000人、ボランティア650人、共催団体17団体と、日本でも数少ないボランティアで作り上げるチャリティーランニング大会に成長。走ることを楽しく、楽しみながら世界の子どもたちをサポートする仕組みをつくり、寄付金額は2014年大会までで約7000万にのぼる。第1回~9回目まで東京マラソンのボランティア運営にも携わった。
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