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【セミナーレポート(2015.7.21)】東京オリンピック・パラリンピックの成功のために、私たちができることとは? スポーツボランティアの理想と現実<前編>

2015年10月13日 インタビュー Written by 管理者

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 あと5年で、東京オリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)が開催される。新国立競技場の建設問題やエンブレムのデザインをはじめ、数多くの課題が残っていることに疑いはない。だが、大会の成功は決して、こうした国やオリパラ組織委員会の努力だけでなし得るものではないだろう。

 2020年、数多くのアスリートやスポーツファンが世界中から訪れる。大会が終わった後、「日本に来てよかった」と感じてもらえること、オリパラを通じて幸せを感じられる人が増えることを“大会成功”の重要なキーファクターと位置付けるならば、私たちにもできることがあるだろう。その一つが、ボランティアだ。

 東京オリパラでは、約8万人のボランティアが必要だといわれている。多くのスポーツ団体・組織がボランティアを活用しているが、そのマネジメント手法が確立されているとはいえないのが現状だ。どのようにボランティアを運営することが必要なのか? 東京オリパラをきっかけに、スポーツボランティアが定着するためには、何が重要なのだろうか?

 7月21日、NPO法人日本スポーツボランティアネットワークの事務局である但野秀信氏と、一般社団法人PARACUPの代表理事、森村ゆき氏をゲストに迎えたセミナー、「スポーツボランティアの理想と現実」(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:株式会社フォトクリエイト 3階セミナールーム)が開催された。その内容を3回に分けて振り返り、あらためてボランティアの実情と今後について考察していきたい。

 今回はその中から、但野氏による「第1部 スポーツボランティアの実際」の講演をお届けしよう。

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■日本におけるスポーツボランティアの現状とは
 皆さん、こんばんは。私からは、「スポーツボランティアの実際」というテーマで、そもそもボランティアとは一体何なのか、どのような役割があるのかといった話をしたいと思います。

 最初に、スポーツとボランティアの語源から整理したいと思います。スポーツの語源は、ラテン語の“Deportare”(生活から離れる)で、日常的な苦労からの解放や気晴らし、休養、遊びを意味します。ボランティアも同じくラテン語で(“Voluntarius”)、自発性、公益性、無償性などを意味します。

 NPO法人日本スポーツボランティアネットワーク(以下、JSVN)では、ボランティアの特徴として、“自発性”、“公共性(公益性)”、“無償性”、“先駆性”、“継続性”の 5つを挙げています。その中でも一番大切だと考えているのが、“自発性”です。誰かにやらされるのではなく、自分の意思において活動することを、最も重要視しています。

 笹川スポーツ財団が調査したスポーツライフ・データ(成人)によると、現状、日本で年に1回以上、「ささえる」スポーツであるスポーツボランティアに参加する人の割合は、7.7%という結果が出ています。「する」スポーツは、年1回以上が74.4%、週2回以上が49.3%。「みる」スポーツは会場でのスポーツ観戦が対象となり、31.7%となっていますから、いかにスポーツボランティアへの参加率が低いかが分かります。

 では、スポーツボランティア活動をしている人たちは、一体どのような動機で参加しているのでしょうか。例えば、人との交流を深めたい、自身の存在価値を高めたい、社会貢献・社会参加をしたい、社会経験を積みたい、などが挙げられます。その他にも、イベントボランティアの場合には、面白そう・楽しそうや、非日常を体験したいといった動機もありますし、地域活動の場合には、地域への愛着や恩返しなどがあります。特に最近、50代後半の男性でボランティア活動をしたいという方が増えているように感じます。その動機は、これまで仕事ばかりの人生だったので、地域や社会に貢献できるようなことを今から始めてみたい、ということです。

 また、参加している人の属性は非常に多岐にわたります。一番大きな割合を占めるのは社会人です。会社員や公務員、なかには役員という人もいますし、自営業の人もいます。性別、年齢、地位、役職などを超えて、スポーツボランティア活動を通して多くの人たちと交流することができます。また、大学生・高校生といった学生も一定の割合を占めています。普段の生活で接することの少ない社会人との交流やめったにできない経験ができることに興味を持って参加しているようです。

■ボランティアが果たす役割はとても大きい

 スポーツボランティアはその活動分類によって、3つに分けることができます。1つ目が、アスリートボランティアです。例えば、プロ野球選手やバスケットボール選手が小学校や福祉施設を訪れて行う地域貢献や社会福祉がこれにあたります。2つ目が、クラブ・団体ボランティアです。例えば、スポーツ少年団やサッカークラブなどの継続的な活動で、指導者や運営のボランティアといった役割が挙げられます。そして3つ目が、イベントボランティアです。地域や全国のスポーツ大会、オリパラのような国際大会でのボランティアとなります。このイベントボランティアはさらに、専門ボランティアと一般ボランティアの2つに分けることができます。専門ボランティアは、通訳や審判の資格を持っている人による活動です。一般ボランティアは誰もが参加できる活動で、例えばランニングイベントであれば、給水・給食、受付、案内、誘導、交通整理などがこれにあたります。

 イベントボランティアの事例として、2020東京オリパラに規模が近いロンドンオリパラを紹介します。ボランティアの人数は約7万人。約24万人の申し込みの中から、書類選考やインターネット面接等を踏まえて採用されました。組織委員会とは別に、ロンドン市が約8000人のボランティアを採用し、オリパラ期間中にロンドン市内の主要箇所で市内の観光案内などの活動をしていました。

 イベントボランティアのモチベーションをどのようにして上げるのか、イベント開催前、開催中、開催後に分けて説明します。イベント開催前では、事前説明会を開催することで、目的意識を共有し、使命感が芽生えます。また活動内容の告知によって自らの準備や、他人への情報発信ができるようになります。この他人への情報発信とは、口コミやSNSを介した市民レベルからの情報で、その効果は大きいと考えます。開催中には、ボランティアのメンバーやリーダーとの出会い、ボランティア活動の体験、振り返りがあります。開催後には、関係者の集いやカード等の礼状の受け取り、写真やユニフォームといった記録の保有、他人への情報発信などがあります。こうしてモチベーションを上げることで、継続参加へとつながっていくものと考えられます。

 ロンドンオリパラでは、ボランティアを“ゲームズメーカー”と名付け、「五輪をつくるのはあなたたちだ」と主催者から言われ続けました。また、大会組織委員会セバスチャン・コー会長からは、「ボランティアこそ五輪の主役」「ボランティアは五輪にとって血である。そしてボランティアは、そのユニフォームをプライドと共に着てほしい」というメッセージを送りました。主催者側がこのようなメッセージを発信し続けたことでボランティアはモチベーションをアップさせることができ、ボランティアではない市民にもボランティアに対する応援の気持ちが生まれていたようです。オリパラ閉幕後に行われたパレードでは、選手団の次にゲームズメーカーもユニフォームを着て行進し、観客から歓声を浴びました。日本でもロンドンオリパラ後、銀座でパレードをしましたが、メダリストや上位入賞者のみの参加だったことを考えると、参考になるのではないでしょうか。

 ボランティアとして活動する人は、「人との交流」「自身の存在価値」「社会貢献」など、何かを求めて参加しています。活動の動機には、メガイベントであれば、面白そう・楽しそうであったり、人との出会いや非日常の体験など。地域イベントであれば、地域への愛着や誇り、恩返しなどがあります。こうしたボランティアが求めていることを主催者側がイベントを通じて達成させることができれば、ボランティアの持続可能性が高まります。ボランティアの力というのは、開催地のイメージアップや活力のあるまちづくりなどに大きな役割を果たすことになり、そのアイデンティティー(主体性)は継承されます。

 そうした中で最も大切なことは、ボランティア・参加者(競技者)・主催者の相互における認知だと考えています。それぞれの役割があり、一つでも欠ければイベントは成り立ちません。例えばランニングイベントで、給水という役割をボランティアが自発的に活動しています。それをランナーが認識して「ありがとう」と言う。ボランティアの「頑張って」という一言であたたかい雰囲気となる。そうした環境を生み出すことは主催者の大事な役割になります。ボランティアをイベントで活用するのであれば、こうした認知がとても大切になります。

■日本スポーツボランティアネットワークは各団体の相互連携

 国内のスポーツボランティア団体は約150程度ありますが、相互連携はほとんどしていません。例えば各行政区が運営するボランティアセンターは、その行政区以外のボランティアの募集はしていません。プロスポーツチームでは、そのチームでのボランティア活動のみを募集しています。それぞれのボランティア活動にはこれまでの経験があります。地域の特性や成功事例、失敗事例や課題など情報を共有することで日本のスポーツボランティアが豊かになるのではないかと考えています。JSVNでは、団体と団体をネットワーク化し、日本のボランティアを活性化させることを目的に活動をしています。

 主な事業内容としては、3つあります。1つ目は、スポーツボランティア養成事業です。ボランティアの個々の知識や技術の向上です。ボランティアが何を学ぶべきか、ボランティアリーダーはどのような役割が必要なのかなどをカリキュラムにしています。2つ目は、コーディネート事業です。ボランティアを募集している団体と、活動したい人のマッチングがほぼできていません。JSVNでは、ボランティアを無償の労働力と捉えるのではなく、ボランティアと共にイベントを成長させたいと考えている団体をJSVNでは紹介しています。3つ目は、スポーツボランティア周知・啓発事業です。ボランティアに関するさまざまな情報の発信や交流となります。個人や団体によってボランティアについての考えというものには相違があります。そうしたそれぞれの考えを交流会の中で発信してもらうことによって、お互いに多くの学びが得られるのではないかと考えています。JSVNではこうした3つの事業活動を通して、スポーツボランティア文化の定着につながるものだと考えています。JSVNでは、各スポーツボランティア団体が有するさまざまな情報を集めて、上記のような事業展開をしています。この各事業でのノウハウは全て、スポーツボランティア団体に無償で提供しています。

 JSVNでは、数多くの講習会を開催しています。HPにて各種案内を掲載しておりますので、ご関心のある方は、ご参加ください。

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 次回は、一般社団法人PARACUPの代表理事の森村ゆき氏による、「第2部 スポーツボランティア運営の実際」をお届けする。森村氏が10年以上にわたってスポーツボランティア活動に関わってきた経験から、スポーツボランティア団体の運営をテーマにお話しいただく。

<中編はこちら>

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<講師プロフィール>
但野秀信(ただの・ひでのぶ)
NPO法人日本スポーツボランティアネットワーク 事務局/笹川スポーツ財団経営企画グループ
http://www.jsvn.or.jp/

1976年、神奈川県生まれ。ライフセービングにおいて、全日本選手権優勝やワールドゲームズ3位などの経験を持つ。2005年に笹川スポーツ財団に入団し、国内最大のオープンウォータースイミング大会湘南OWSの事務局や東京マラソンのボランティア運営などに携わる。12年のNPO法人日本スポーツボランティアネットワーク設立から事務局を担当する。国内のスポーツボランティア団体のネットワーク化を行い、スポーツボランティア文化の醸成を図ることを目的に活動している。
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