【セミナーレポート】企業によるスポーツの有効的な活用術~胸スポンサーや看板だけではない!? 具体的事例とその成果~
2017年09月20日 インタビュー その他 Written by 深谷 友紀
2020年に向けて、企業のスポーツへの関心は高まってきている。しかし、実際企業側がどのようにスポーツを活用することができるのか、明確になっていないことが多い。
7月に開催されたセミナー、「企業によるスポーツの有効的な活用術」(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:Spaces)では、企業がどのようにスポーツと関わり、どのような成果を上げているのか、事例を通して伝えられた。本記事では、その内容をレポートする。
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第一部 『企業が中学校の部活動を支援する方法』
第一部では、スボーツデータバンク株式会社取締役 石塚大輔氏が、中学校の部活動の現在を語った。
スボーツデータバンクは、スポーツ・健康・ビジネスで社会課題を解決する事業を行っている。事業モデルとしては、ネットワークを活用した人材派遣業で、創業当時は自社施設なしのスクール事業を行っていた。
石塚氏は2017年5月19日にスポーツ庁より発表された「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議」に、委員として参加している。
■中学校部活の現在
部活動による中学校教員への負担については、数年前までは大きく取り上げられなかった問題であったが、国の働き方改革が叫ばれる昨今は、注目のキーワードとして目にしている人も多いだろう。
具体的な問題点は、以下の通りだ。
1.教員が部活動に関わる時間的負担が大きい
2.半数が指導経験のない種目の指導を行っている。
特に2.については、教員にとってストレスであり、また子どもたちにとって果たして良いことなのか、という問題があるとのこと。
■部活動外部指導員について
部活動問題の解決策の一つとして外部指導員の導入がある。しかし、誰が派遣しているのかが問題で、これまでは、個人が各教育委員会に登録していた。ボランティアのような形で行われていたので、指導者の質には疑問が残る。指導者の質の向上、安全管理体制(保障等)が課題。また、一度外部指導員を入れると、その人しか詳しい人がいなくなり、指導者変更が容易にできなくなるという問題も起きている。
■スボーツデータバンクの支援事業
地方自治体、地域の教育委員会から民間委託により、部活動の外部指導員が2010年に導入された。杉並区立和田中学校でこの制度が採用され注目を浴びた。当時の校長は、民間人中学校長として話題になった藤原和博氏だった。その後各地域に横展開されてきているとのこと。スポーツデータバンクでは学校と指導者の間に入り、学校のニーズを把握してマッチングを行っている。この制度の導入により、以前は教育委員会から支払われていた部活動外部指導員への報酬が、1回あたり3000円程度から、3600円程度に上がるようになったとのこと。またそれとは別に、教育委員会などが予算を付けて民間に委託するモデルでは、報酬を3時間で1万~1万2000円としている。しかし、継続的に予算を付けることが難しく、「原資をどこから持ってくるかが課題」と石塚氏は語った。
■地元企業が地元中学校の部活動を支援する
地域の教育委員会が、「現地の指導者への報酬の原資をどこから持ってくるか」という課題の解決策として、企業のスポンサードによる地域の部活動支援ができないか考えられた。
沖縄県うるま市での中学校の部活動を企業がサポートしている事例がある。うるま市内を拠点としているホームセンターが、うるま市の中学校の部活動を支援している。これは、地元の企業がスポンサーになることで大企業のスポンサーよりも身近に感じるのではと考えたためと石塚氏は説明した。
■今後の展開の可能性
日本の教育プログラムは、アジアを中心に「ジャパンブランド」として評価されている。その一つとして、部活動を海外への輸出する試みが考えられているとのこと。
「企業のスポーツへのスポンサーシップに関しては、まだまだ課題はありますが、部活動を支援することは、学校教育現場に入っていけるメリットがあるのではないかと思います」と石塚氏は語った。
第二部 『スポGOMIによる企業の経営課題の解決』
第二部は、「スポGOMI」という競技を通して、企業がさまざまな経営課題に取り組んでいる事例を、「スポGOMI」を主催する一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブ代表理事の馬見塚健一氏に語ってもらった。
■スポGOMIとは
馬見塚氏はまずスポGOMIについての概略とこれまでの活動について語った。スポGOMIは2008年に日本で開発された競技で、以降約550大会以上を開催、のべ約5万人以上の参加者がスポGOMIで結び付いている。
1チーム3~5人でエントリーでき、チームの安全面を確保するため、1名審判員が帯同、チーム員同士は先頭と最後尾が10メートル以内の距離を保つ、街が競技エリアの場合、走らない。競技時間は60分。ゴミの分別を守る(分別ごとにポイントを掛け算)などルールが活動の中の試行錯誤により確立されていった。
スポGOMI開催当初は、全く理解されていなかったが、徐々に自治体や企業からの開催依頼が増えていったという。「地方自治体は、一度開催実績ができると継続して行われ、かつ他の自治体にも横展開されていく傾向にあります」と馬見塚氏は語った。
また、最近のホットなニュースとしては、スポGOMI の活動が評価され、今年6月5日の世界環境デーに東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会主催による「東京2020 スポGOMI大会」が開催され、アスリート・大使館・学生団体・関係者など合計22チームの参加で行われたとのこと。
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■企業のインナーコミュニケーション×PRの活動事例
神戸製鋼グループの株式会社神鋼エンジニアリング&メンテナンスで社内のコミュニケーション活性化と地域貢献を目的として行われた。
世界最大のメディアコミュニケーション・エージェンシーのグループエム・ジャパン株式会社では、社員にさまざまな国籍・人種の方たちが働いている中、同じ社内で顔も知らない人が多いことを問題視し、コミュニケーションを活性化させることを目的に、平日、早めに仕事を切り上げて行われた。
東急不動産株式会社では、プレミアムフライデーにスポGOMIが行われた。最初は皆、戸惑いながら参加していたものの、スーツ姿であることを忘れて夢中になっていったとのこと。同社の広報が興味を持ち、他の大会に一度参加したことがきっかけで行われた。結果として同社での大会は盛り上がりを見せ、次回は渋谷でグループ内の対抗戦を企画しているとのこと。
映画配給会社3社(ワーナー・ブラザース、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、ディズニー)合同で大会が行われた事例もある。
各社の社員、社員の家族のみの参加で日曜日に開催された。普段はライバル会社同士だが、ワーナーの社長の呼びかけにより、地域貢献活動を行いたいという社長の想いから開催が実現に至ったとのこと。
これら企業団体の事例が多くなった理由として、「地方自治体との繋がり、地域の方たちとの交流、自分たちの会社を知ってもらう点でメリットがある」と馬見塚氏は語った。
また、日本コカ・コーラ株式会社の天然水ブランド「い・ろ・は・す」のPRとしてスポGOMIが全国主要都市で行われた。会場にはライバル企業の商品が目につくかなど、開催にあたっては気を遣う点が多かったという。さらに、「い・ろ・は・す」よりもスポGOMIのインパクトのほうが強くなってしまうのではという懸念もされていたことから、「い・ろ・は・す」のボトルをどれだけ早く絞れるかを競う「Twist Challenge(ツイスト・チャレンジ)」も実施するなど、インパクトを強める工夫をしたとのこと。
■なぜスポGOMIが企業から評価されるか?
スポGOMI が企業・自治体から評価される理由として自身が分析した結果、以下の5つにまとめられた。
1.どこでも開催できる
2.誰でも参加できる
3.地域も巻き込む(スポーツ・健康促進と環境美化)
4.短時間で開催できる
5.ミニマムだけど企業にとって強い参加者とのコミュニケーションが図れる(小規模の大会でも参加者との強い結びつきができる)
現在、スポGOMIは国内にとどまらず、海外でも評価されているとのこと。
質疑応答
Q.(石塚氏へ)教育委員会にとって民間企業が参入することにアレルギーはないのでしょうか?
A.課題の解決方法としての提案ならば、和やかな雰囲気はあります。今回の事例では、沖縄という地域の特性かもしれませんが、それほどアレルギーはなかったかなと感じました。(石塚氏)
Q.(石塚氏へ)部活指導員の全国への横展開(自治体と指導員のマッチング等)についてはどう考えているのですか?
A.横展開については我々1社ではできないので、まずはモデル構築をして、各地の協力企業へコンサルティングをしていく予定です。指導者のマッチングに関しては種目によってかなり幅があります。野球・サッカー・バスケなどプロスポーツチームがある競技はマッチングしやすいです。(石塚氏)
Q.(両者へ)効果測定についてはどのように行っているのでしょうか?
A.CS(顧客満足度)の効果測定は難しいと考えています。広告宣伝として効果測定を行っていますが、現状は試行錯誤の段階というところです。(石塚氏)
A.我々が大事にしていることは、参加企業に出していただく金額と我々が出せるパフォーマンスのバランスです。自治体では、安心安全でイベントが盛り上がれば満足されています。(馬見塚氏)
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この後、懇親会が行われた。部活動の問題について真剣に考えられている参加者が多く、会場のあちこちで熱気のこもった議論が交わされていた。課題への取り組みは、まだ始まったばかりだ。乗り越える壁は大きいが、今後さらに多くの人が高い関心をもって課題解決に向け知恵を出し合うことを期待したい。
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<講師プロフィール>
石塚大輔(いしづか・だいすけ)
スポーツデータバンク株式会社 取締役
2003年 スポーツデータバンク(株)創業メンバーとして参画
2015年 同社取締役就任
2015年 スポーツデータバンクコーチングサービス(株)代表取締役就任
2015年 グループ初の海外現地法人の設立、台灣思動邦有限公司 董事長就任
2016年 スポーツデータバンク沖縄(株)の設立、代表取締役就任
2017年 文部科学省・スポーツ庁 【運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン作成検討会議】委員
2017年 沖縄国際大学総合研究機構 研究所特別研究員
馬見塚健一(まみつか・けんいち)
一般社団法人 ソーシャルスポーツイニシアチブ 代表理事(旧・一般社団法人 日本スポーツGOMI拾い連盟)
株式会社ブレイン プロデューサー
一般社団法人 日本スポーツ雪かき連盟 副理事
横浜商業高校スポーツマネジメント科非常勤講師
1967年生まれ 鹿児島市出身
2007年、スポーツと環境をデザインするブランドコンサルティング集団、深浸呼吸有限責任事業組合を設立。同年、ap bankの第5期プロジェクトとして「mawaru fukuro(地球柄のごみ袋/ごみ=幸せの抜け殻)を発表。2008年、一般社団法人日本スポーツGOMI拾い連盟発足。2016年6月、「スポーツで、地域の社会課題を解決する。」をテーマに、一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブに社名変更。
主なプロジェクト
・はかりうり推進委員会(ナチュラルローソンとの取組)。
・mawaru project(2008年東京ヤクルトスワローズ/2009年オリックスバファローズとの使用済ユニフォームを使用したリメイクプロジェクト)
・nono japan1609 project(鹿児島奄美大島 与論島の大島紬の復興)
・スポーツGOMI拾い大会の企画運営 など
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【了】
深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。
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