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「言葉を訳す仕事は全体の0.5%」阪神タイガースの元通訳が語る、スポーツビジネスの難しさとは。 ~河島徳基インタビュー/前編~

2017年01月12日 インタビュー Written by AZrena

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 SJNでは、知られざるスポーツの裏側の情報を提供している「AZrena(アズリーナ)」のご協力を得て、記事提供を頂いております。

 スポーツ系企業に入る過程の中には、一般的な企業の採用試験と同じように書類選考や面接などがあります。ただ、その採用の窓口を見つけるのは、常に当該企業の情報をチェックするなどしなければならず、労力がかかるものです。

 そんなスポーツ界を志望する人がチェックするべき情報サイト「SPORTS JOB NETWORK(SJN)」では、日本最大級のスポーツ求人情報を扱っています。今回はその運営を行う弊社、株式会社RIGHT STUFF取締役の河島徳基のインタビュー記事を掲載していただきました。前編では河島がスポーツ界で務めた通訳と営業という異なる2業種について語っています。

(出典:AZrena『「言葉を訳す仕事は全体の0.5%」阪神タイガースの元通訳が語る、スポーツビジネスの難しさとは。』2016年12月13日)

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「つまり自分は片方の選手と4時まで飲んで、その5時間後にもう片方の選手と原爆ドームに行かないといけない(笑)。あとは家族が球場にほぼ全試合見に来るけど、その席を手配することもしました」
(株式会社RIGHT STUFF 取締役 河島徳基)

■トレーナーから通訳への転身

 私はもともと野球をやっていて、けがをする中でいいお医者さんに会えなかったんです。それも30年ほど前なので、今思うと非科学的トレーニングが多かった。大学は経済学部に進学したのですが、フィットネスクラブで1年生からアルバイトをして、いろいろとトレーニングについて勉強をし始めました。そこで立花龍司さんという、当時近鉄バファローズに所属をしていた野茂英雄選手のトレーニングを見ていた方の特集をスポーツニュースで見たんです。

 そこで、アスリートにトレーニングを教える仕事があるということを初めて知り、調べてみると、アメリカがその分野ですごく進んでいると。当時日本にはパーソナルトレーニングという言葉もなかったのですが、調べる中で選手にトレーニングを教える仕事がアメリカにはあるということを知り、渡米を決意しました。

 大学卒業後にアメリカの大学院に行って、生理学、解剖学、トレーニング理論を勉強しました。その後、アスリート専用のトレーニングジムで働いていたのですが、2年たったころに家庭の事情で帰国をしなければならなくなったんです。そして、帰国をした後もパーソナルトレーナーを東京で続けていたのですが、ここで転機がありました。たまたま2002年に阪神タイガースで外国人選手の通訳を公募しているのを発見し、応募をしたら運良く通ったんです。

 実は、最初の面接で落ちたんですけど、繰り上がりで自分が受かりました。チームは2月1日からのキャンプに入ったのですが、2月13日、急に電話がかかってきて『今からキャンプに来られないか?』と言われたんです。どういうことかというと、受かった人が前の職を辞められなかったと。ただ、タイガースとしては今すぐにでも来てもらわないと困るから、その人を切って、次点だった自分に連絡をくれたという話だったんです。2月13日に電話がかかってきて、2月15日に飛行機でキャンプ地に近い高知空港に降り立ったのですが、窓の外も暗くなった高知空港を見て「俺はここで何をしているんだろう?」と思いました (笑)。

 だからこそ、タイガースに入れなかった人にどこかで会ってみたいなという気持ちもあります。その人が普通に前職を辞められていたら自分はここにいられなかったし、全然違う人生が待っていたわけですから。ちなみに後から聞いたのは、その時の応募には履歴書は90通ほど来て、面接をした人は6人とのことでした。

■言葉を訳す仕事は全業務の中で0.5%

 いざ始めてみた通訳の仕事ですが、言葉を伝える仕事に関しては0.5%くらいなんです。20%くらいのことは野球にまつわることで、残りの80%は本人と家族の世話なんですよ。外国人の方は家族を大切にしていて、家族が幸せであれば自分も幸せにプレーできるけど、逆になるとプレーできないみたいな感じがあって。それで僕らの仕事はいかに気持ち良くプレーしてもらえる環境をつくるかということのほうが、ウェイトが高い。

例えば最初に外国人選手が日本に来たときは、買い物に付き合って歯磨き粉がどれなのかとか、子どもの学校をどうすればよいか、とか。子どもが熱を出したと夜中の12時くらいに電話がかかってきたこともありました。その場でまずトレーナーに連絡して、病院を紹介してもらって、一緒に行きましたね。深夜1時くらいに病院に行って、また明日の9時に来てくださいと言われましたよ(笑)。楽しかったけれど、時間的にはかなりしんどかったです。

 遠征のときには、一方の選手は家族を連れてきていて、もう一方の選手は家族を連れてきていないケースがあると、後者の選手と夜、飲みに行くわけですよ。そして、深夜3、4時に帰ってくる。でも、そこから休めるわけではなく、家族を連れて来た選手は『朝9時から広島の原爆ドームに行きたい』と言ってくる。つまり自分は片方の選手と4時まで飲んで、その5時間後にもう片方の選手と原爆ドームに行かないといけない(笑)。あとは家族が球場にほぼ全試合見に来るその席を手配することもしました。

 本当に良い選手でも、24時間一緒にいるとやはり何かしら対立することもあります。また、シーズンは長いので選手が疲れていたりイライラしたり、そういうこともある中で常に一緒にいないといけないので、難しい部分はあります。

 ちなみに、私が見ていた選手はトレイ・ムーアやジョージ・アリアスですね。2002年から2005年まで阪神タイガースでお世話になりました。

■通訳から営業部へ

 選手の通訳として入ったのですが、1年だけ営業部としても働かせてもらいました。当時はトレーナーから通訳として入って、思い切り現場の人間だったのですが、入団2年目に営業に配属された際にフロント、つまりビジネスサイドを初めて見ることができたんです。それはすごく刺激的でした。また、本当にタイミングが良かったんですけど、僕が営業に移った2003年は優勝した年で、1年を通じていろいろあったんです。

 同時にスポーツビジネスの難しさを感じた時期でもあります。例えばビジネス側がファンサービスの一環として、営業部が握手会を企画して、現場サイドに持っていく。「この選手とこの選手を握手会で出したいです」と星野仙一監督(当時)に伝えるんです。すると、「そんなことができるか! 今はインフルエンザがはやっていて、握手をして移ったら3週間試合に出られない。そんな危険なことができるか!」と言われる。

 これはすごく単純な例なのですが、あちこちでこういったことが複雑に絡み合うんですよね。現場の目的は優勝というか、試合に勝つこと。フロントの目標はある程度“稼ぐ“というところがある。そこのさじ加減の難しさがスポーツビジネスにはあるなと。

 また、これは日本特有だと思いますが、親会社の存在が良くも悪くも大きいんです。今は阪急阪神ホールディングスですけど、当時は阪神電鉄という電鉄会社。やはり、そこから出向で来られている方はどこを見て仕事をするか、どこから給与を得ているかということになると、電鉄会社から給与を得ているわけで、決してタイガースから給与をもらっているわけではない。

 そうなると、極端な話ですが、タイガースの試合に何人入ろうが、何百万もうけようが関係ないんです。タイガースの活躍やタイガースの業績が自分の収入と直結していないわけです。

 あとはビジネスの特性が全く違う。スポーツビジネスは“エンターテインメント性”が重要なんです。ただ、電鉄会社として最も重要なことは、“安全性”と“正確性”の2つ。この2つの哲学は真逆です。電鉄がエンターテインメントを本気でやろうとなると少し難しさが生まれます。現在、DeNA、楽天、ソフトバンクあたりが球団経営をしてうまくいっているのは、親会社がIT企業で、“イケイケドンドンで楽しいことをやろうぜ!”という風土があるから、親和性があるんです。

(後編へ続く⇒)https://sjn.link/news/detail/type/report/id/123

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河島徳基(かわしま・のりもと)
株式会社RIGHT STUFF取締役
学習院大学経済学部卒業後、渡米して大学院で学んだ後、アスリートの専属トレーナーに。帰国後、東京でパーソナルトレーナーを務めた後、阪神タイガースの通訳に。営業部も経験し、2005年にスポーツ特化の人材紹介会社であるRIGHT STUFFを設立。著書に「スポーツ業界の歩き方」がある。
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【了】

竹中玲央奈●文 text by Reona Takenaka

記事提供:AZrena
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