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【セミナーレポート】Wanna work abroad? 国際派を目指す君へ~アルビレックス新潟シンガポール代表取締役是永氏からのメッセージ~

2016年12月18日 コラム Written by 深谷 友紀

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 これからは国際感覚を持った人材が必要である、とあらゆる場所で叫ばれている。しかし、実際にそのような人材を育てるような策が打たれているだろうか? むしろ現代の若者は内向き志向であるとさえいわれている。

 この現状を打破すべく、若い人に海外で挑戦することを勧め、自ら実践する人物がスポーツ業界にいる。アルビレックス新潟シンガポール代表取締役の是永大輔氏である。

 11月18日に開催されたセミナー、「Wanna work abroad? 国際派を目指す君へ~アルビレックス新潟シンガポール代表取締役是永氏からのメッセージ~」(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:株式会社フォトクリエイト 3階セミナールーム)では、その是永氏から海外に挑戦する意義、そのために必要なこと、海外から見た日本など、これまでの9年間の海外でのスポーツビジネス経験を踏まえて語っていただいた。


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■経営=ストーリーが必要

 2002年に大学を卒業後、モバイルサイトの会社でアルバイトとしてサッカー関係のサイト運営等を手掛け、編集長も務めた。その後、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール等の海外クラブの日本語版公式モバイルサイトを立ち上げ、サイト運営、広告事業、マーチャンダイズ等々にも携わった。2008年にアルビレックス新潟シンガポールの社長に就任し、現在に至る。

 アルビレックス新潟シンガポールの社長に就任後、何のためにクラブがあるのか誰も存在意義は見えていなかったことに気付いた是永氏は、存在意義をつくる作業を一つひとつ行ったという。その結果、毎年赤字で破綻寸前だったクラブは、是永氏就任以降黒字化が続いたとのこと。

 是永氏は「基本的に経営とはストーリーだと思っています。誰をどういう風に巻き込んでいくのかがマネジメントだと思っています」と語った。

■アルビレックス新潟シンガポールの例

 では、どのようにしてストーリーをつくっていくか? 是永氏はアルビレックス新潟シンガポールの例を挙げて説明した。

(1)クラブスローガンの設定
 それまでのアルビレックス新潟シンガポールにはクラブスローガンがなかったので、「The reason.~ここにある意味~」というスローガンをつくった。
 是永氏は「理由がないから、理由をつくった。"みんなで存在意義をつくっていこう"というところからこのクラブは始めなければならなかった」と語った。

(2)重要なステークホルダーに最大公約数で伝わる理念を設定
 ステークホルダーであるストーリーにどれだけ多くの人に応援してくれる環境をつくれるか?
 是永氏は「日本人のサッカークラブとして、単にサッカーをしているだけではハードルが高い、コアの人に響くような言葉でないと巻き込んでいけない。経営的にはうまくいかない」と語った。主要なステークホルダーである日本人の課題を解決するようなサッカークラブであれば、支援・応援してくれるのではと考えたとのこと。
 そこで、是永氏は日本の人口の急減問題に着目したという。鎌倉時代からの人口推移をグラフで説明しながら、人口激減による経済のシュリンクが起きると説明した。
 海外との接点を持たないとこの問題は解決できない。しかし、近年10代のパスポート取得率が低下していることに是永氏は危機感を感じ、これを解決することをクラブの目的の一つとして考えた。
 是永氏は、「海外で堂々と戦う若い日本人の育成」と掲げることで応援してくれる人たちに対して、"一緒に日本を救っていきましょう"というメッセージをキーワードとしてつくった」と語った。

(3)全ステークホルダーにプライオリティー順で事業推進を発信
 是永氏は、「アルビレックス新潟シンガポールには全てが何もできていなかった。そのため当面即効性のある部分のみ改善した」と語り、選手、スポンサー、JAPNサッカーカレッジ、Sリーグ、シンガポール等のステークホルダーに順次メッセージを送っていったとのこと。
 特に無名の若い選手に対し、"ここはステップの場、ゴールではない。ここで活躍すれば、海外からのオファーがあって引き抜かれていくから"とメッセージを送った。このことで高額の報酬がなくとも選手が来てくれるようになり、人件費も抑制できたことが、初年度から黒字化できた一番大きな要因だったとのこと。

(4)ステークホルダーとスタッフに夢を提供
 是永氏は「海外への事業展開をどんどん増やしていくことで、"シンガポールで終わらない、シンガポールで活躍したらどんどん違う国へ行けるんだよ"というメッセージを発信し、これによりスタッフのモチベーションやスポンサーへの親和性が高まっていく」と説明した。

■シンガポールリーグについて

 シンガポールのサッカーリーグ「Sリーグ」は世界でも珍しい多国籍のチームで構成されている。

 2016年シーズンにアルビレックス新潟シンガポールは国内の全タイトルを獲得した。21年目を迎えたSリーグで初めてのことのこと。

 是永氏は今季ぜひとも全てのタイトル獲得を成し遂げたかったという。2016年は日本とシンガポールの国交樹立50周年にあたり、国内外でさまざまなイベントが行われており注目を集めている。そのことに加え、Sリーグ外国人枠が5人から3人に減り相対的に相手の戦力が低下した。さらにホームスタジアムが今季から人工芝になるなどアドバンテージが増えたため(※)、2~3人の良い選手の補強を行い優勝を目指したとのこと。
(※日本の天然芝は非常に良いコンディションであるのに対して、アジアではボコボコの状態でコンディションが良くない。日本人選手は日本の良い芝に慣れているため、アジアの芝に苦しんでいたが、ホームスタジアムが人工芝に変わることでプレーがしやすくなり有利になった)

 是永氏は「優勝は最初から予定通りだったので驚きよりもホッとした感じだった」と語った。

■アルビレックス新潟シンガポールの事業展開

 2008年に是永氏が社長に就任以降、アルビレックス新潟シンガポールの売上・利益は右肩上がりだ。その中で特筆すべきはカジノ経営が全事業の2/3の収益をもたらしていることだ。「サッカークラブがカジノ経営?」と驚かれるかもしれないが、シンガポールでは、カジノで収益を高めてサッカークラブに還元することは、当たり前のように行われているとのこと。是永氏は「われわれが日本で正攻法だと思っていることは、もしかしたら世界では正攻法じゃないかもしれない」と語った。

 カジノ以外の収益では、Sリーグ分配金、スポンサー収入、サッカースクール等教育各種、シンガポール国外でのサッカースクール事業、アルビ食堂などで構成されている。

 スポンサーはキヤノン社。キヤノン社は大会やリーグのスポンサーになることはあっても、一つのサッカークラブのスポンサーになるのは珍しいということだ。"一緒に日本を救っていきましょう"というメッセージに共感してもらえたのが大きいとのこと。

 その他のスポンサーも日系企業が多く占めているとのこと。

■地域社会貢献活動の重要性

 海外で活動しているサッカークラブとして非常に気を付けないといけない部分があるという。それは地域社会への貢献だ。

 是永氏は「スロットマシンカジノ運営で収益拡大していると周囲の目が厳しくなるので、地域に対しての配慮はしっかり行わないといけない。社会貢献活動は、サッカークラブとして当たり前のようにやっていくべきだと思っている」と語っている。

 アルビレックス新潟シンガポールでは、2013年よりジュロンイーストスタジアム開催のホームゲーム(Sリーグ、リーグカップ、シンガポールカップ)入場者数1名につき1シンガポール・ドルをホームタウンであるYuhua Community Sports Club (CSC) に寄付を行っている。シンガポールで同様のことを行っているところはないとのこと。

 アルビレックス新潟シンガポールからサッカースクールのスタッフを派遣し、給料は寄付金から払われる。一見寄付しなくとも単純にスタッフを派遣するだけで良いように思えるが、是永氏は「見え方として"寄付をしている"というのが前提としてあることが素晴らしくメディアバリューがある。シンガポールの人たちにとってみれば納得感が高まる」と説明した。

 このような活動が認められ、2015年にシンガポール政府からシンガポールにおいて顕著な地域・社会貢献活動をなしたと認められた団体に贈られる「PEOPLE’S ASSOCIATION COMMUNITY SPIRIT AWARDS」を受賞した。海外の企業としては初めてのこと。

 また、2017年より「ALBIREX SPORTS DEVELOPMENT FUND」を設立し、カジノの収益一部を利用してシンガポール人の子ども2名を新潟へ派遣する予定とのこと。日本サッカーを体験するトレーニングに参加するだけでなく、日本文化を感じることのできるプログラムが組み込まれるようだ。

 是永氏は「そうすることによってわれわれの"The reason"がシンガポール国民にも浸透する」と語った。

■アルビレックス新潟バルセロナ

 アルビレックス新潟シンガポールがバルセロナで運営している。アマチュアチームとしてスペイン・カタルーニャ州の4部に所属。留学ビジネスのモデルとして、世界に羽ばたく国際人をつくる目的で立ち上げられた。サッカー×スペイン語をキーワードとして、コミュニケーションのきっかけとしてサッカーを利用しようという試みだ。

 是永氏は「FIFA(国際サッカー連盟)に加盟している国は国連加盟国より多い。(リオネル・)メッシなら知っている程度でもサッカーを知っているなら、世界中の人たちが分かってくれる。こんなコミュニケーションツールはサッカーしかない」と語った。

 また、是永氏は「これから苦しい時代になっていく中でスペイン語は重要になっていく。スペイン語、ポルトガル語を生活レベルで使っている人たちは、世界の人口の13%にも及ぶ。しかし、日本人でスペイン語、ポルトガル語が話せる人材は0.1%しかいない。12.9%のコミュニケーションロスが生まれている。サッカーでもビジネスでも損をしている。チャンスを逃している可能性がある。逆にスペイン語、ポルトガル語を話せる日本人が増えれば、これからの日本を救ってくれる一つのきっかけになるかもしれないという想いでアルビレックス新潟バルセロナを立ち上げた」と語っている。

 アルビレックス新潟バルセロナでは、サッカーはただのきっかけで、サッカー選手になることを目的としていない。サッカーをきっかけにして海外にチャレンジする人材を育成しているのだ。

 カリキュラムは語学、サッカー、ビジネスセミナーを基本としている。スペイン語は1日3時間、週5回勉強しており英語ならば、英検2級くらい話せるようになれるということだ。350チームある4部リーグで、失業率60%の中、スペインの20代が週末にはサッカーに集まってくる。何よりもサッカーが大事だという価値観に触れながら、何かを感じ取とっていく経験ができるのが特徴だとのこと。

 卒業生は、アルビレックス新潟本体や起業家、指導者、メガバンク、居酒屋など多種多様な分野に就職している。特筆すべきは1/3の卒業生がバルセロナを気に入り、バルセロナに残って仕事をしていることだ。「なかなか面白い人材が育ってきている」と是永氏は語った。

アルビレックス新潟ミャンマーサッカースクール

 アルビレックス新潟ミャンマーサッカースクールでは、サッカースクール、アカデミー、CSR活動の三本柱で経営している。

 2年ほど前からミャンマーで3つあるうちの唯一の全寮制ろう学校であるマリーチャップマンろう学校へサッカークリニックを行っている。ろう学校でサッカーを教えていくうちに子どもたちがサッカーがうまくなり、そしてサッカーを好きになっていった。その結果、もっとチャレンジをしたい、対外試合に出たいという気持ちが生まれたという。

 全寮制のろう学校では、子どもたちは、耳が聞こえないため危険だということで、寮の外には出ることは許されなかった。しかし、アルビレックス新潟ミャンマーサッカースクールがバスを手配するなど協力したことで、寮を出てサッカーの試合に行くことができた。

 つまり、ろう学校の子どもたちはサッカーをすることによって寮の外に出る自由を得た。さらに、マレーシアのクアラルンプールで開催されるASEANで初めてのU-18(15~18歳)のデフサッカー大会「1st ASEAN Deaf Football Championship」にも出場することができ、ついに国境を越えることができた。

 是永氏は「今まで耳が聞こえなかっただけで自由が制限されていた子どもたちが、サッカーをすることで国境まで越えられた。この成功体験は、彼らにとって革命的な出来事で彼らの将来をものすごく支えてくれるものなんです」と語った。

 このような活動が実を結び、Myanmar Brewery LimitedとCSRスポンサー契約締結に至った。現地の企業に評価されたことは、日本のスポーツでは例がないとのこと。

 是永氏は「現地の人たちと泥だらけになって一緒に文化をつくっていくんだという自分たちの活動が認められたことは、非常に感動的で気持ちが良かった」と語った。

■まとめ

 是永氏は、「シンガポール、バルセロナ、ミャンマーそれぞれ違う形で運営しています。場所が変わったらやり方を変えなければいけない」と語り、それぞれの国の事業を風と例えて、海外でビジネスを行っていく上で重要なことを以下の3つを挙げてまとめた。

1.風の吹くところで帆を立てる。
2.それぞれの地で風の吹き方は違う。
3.風を徹底的に利用したストーリーで多くの人を巻き込むべし。

 是永氏は、「それぞれの国の事情を利用してストーリーをつくることは、どんなビジネスにも言える。これからもしばらくの間は面白いので続けていきたい」と語り講義を締めた。
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 是永氏のキレのある語り口でユーモアも交えた話に参加者はグイグイ引き込まれていた。

 是永氏が言うストーリーをつくるということは、確かにどんなビジネスでも通用すると感じる。特にこれから起業しようと思っている人や組織の管理職やプロジェクトリーダーになる人は非常に参考なるだろう。

 個人的願望ではあるが、いつの日か国内のフィールドで日本のスポーツ界を引っ張ってほしい。


記事内でも紹介された、サッカーを仕事にするための超実践的プログラム「バルセロナフットボールアカデミー」
▼詳細はこちら▼

http://www.albirex.cat/


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■講師プロフィール
是永大輔(これなが・だいすけ)
アルビレックス新潟シンガポール Managing Director & CEO

モバイルサッカーサイトの編集長として日本最大の会員数を集め、ジャーナリストとしても活躍。
バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールとの新規事業を立ち上げた後、2008年にアルビレックス新潟シンガポールCEO兼チェアマンに就任。
以降、独立採算で黒字経営を続け、売上規模を8倍に拡大。
スペイン、カンボジア各国リーグへの参戦や、マレーシア、タイ、ミャンマーなどにもビジネスを展開。
クラブハウスにカジノを併設するなど革新的な多角化事業を展開し、注目を集めている。
アルビレックス新潟シンガポールHP:http://www.albirex.com.sg/ja/
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【了】
深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。


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