アルビレックス新潟シンガポールの是永社長「僕の仕事は『決断すること』」~是永大輔氏インタビュー<後編>~
2016年09月25日 インタビュー チーム/リーグ経営 Written by サッカーキング
サッカー総合情報サイト「サッカーキング」に記事提供をいただき、わずか29歳でアルビレックス新潟シンガポールの代表取締役に就任し、バルセロナやアジア各国で事業を展開する是永大輔氏のインタビュー記事をお届けしています。
今回はその後編となります。
前編はこちら⇒https://sjn.link/news/detail/type/report/id/72
(出典:サッカーキング「アルビレックス新潟シンガポールの是永社長「僕の仕事は『決断すること』」2016年9月21日)
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シンガポール国内で最大級のクラブに成長したアルビレックス新潟シンガポール。是永大輔氏が29歳で社長に就任した2008年当時は大赤字だったが、わずか1年で黒字転換へ持っていき、以降は経営規模を拡大し続けている。
シンガポールでは「スポーツだけでは無理がある」ため、2011年にはクラブハウスに併設する形でカジノを開業。またマレーシアやカンボジアをはじめとしたアジア各国でスクールも行うなど多角的に事業を展開する。
アジアを舞台に活躍する若き経営者の次の一手は? 是永氏が未来構想を明かす。
――アルビレックス新潟シンガポールの代表取締役に就任して約9年が経ちました。国内でクラブはどのように評価されているのですか?
「サッカー好きならみんな知っていると思います。選手が街中で声を掛けられることもありますし」
――試合にはどれほどの方が観戦に訪れるのですか?
「リーグ内では一番多いですが、それでも1500から2000名ぐらいですね」
――クラブの社長として、普段はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
「決まったルーティーンの仕事からは卒業できました。世界中で新規事業の可能性を探ったり、既存事業のメンテナンスをしたり、地域の有力者に会ったり、トレーニングを見に行ったり…」
――事務作業などもするのですか?
「ほとんどなくなりました。交通費精算ぐらいです(笑)」
――では人に会うことが中心?
「そうですね。新しい事業をつくることが役割だと思っています。スポンサーを訪問したり、現地の企業に行ったり、あといろいろ調べものもします。世界でどんなことが起きていて、どういうビジネスが展開されているか、それを自分たちの分野で応用できないか。そんなことをいつも考えています」
――代表取締役として一番大事なことは何だと思いますか?
「社長の仕事は『決断すること』だと考えていて、そこまでの流れをつくることも大事だと思っています」
――代表取締役になってから仕事のスタイルは変わりましたか?
「最初は社内全ての業務をやっていましたが、徐々に情熱を持ったスタッフが集まってきてくれて変わりましたね。自分ではなるべく何もせずに『決断』だけすることを心がけています」
――なぜそのように変わったのですか?
「自分でやった方が早いし、ノウハウもあるからできることも多い。でも、それじゃあ幅が広がらないんですよ。その作業を他のスタッフに預けていけば、やれることの総面積はどんどん広がるし、僕が新規事業に取り組んだり、新しいことにチャレンジできる時間がつくれる。その視座にも立てる」
――新規事業といえば、2011年からクラブハウスにカジノを併設していると伺いました。
「ヨーロッパでは当たり前にやってることなんです。スタジアムにカフェを入れたり、カジノを入れたり。そのスタンダードに沿っただけで、そうしていない日本が珍しいかもしれないですね」
――なるほど。また一方で、クラブを運営するシンガポールを拠点に、アジア各国でスクールなどを実施しています。アジアにはどんな魅力を感じていますか?
「別にアジアにこだわっているわけではないんです。もちろんこれから伸びていくというポテンシャルは感じていますけど、それよりも日本の優位性が活かせるから、という理由が大きいですね。サッカーの世界では日本は東南アジア各国より優れているので、日本の選手がこちらに来ればガンガン活躍できる。日本に対してリスペクトもありますし、事業を拡大しやすい環境だと思います」
――海外と日本で、ビジネスの進め方に違いなどは感じますか?
「一般的に海外の方が話が早い。だいたい即決で、できないことはできないとはっきり答えてくれます」
――日本はそういう面でわずらわしさを感じたり?
「回りくどい根回しが必要なシーンがありますからね。僕は根回しが苦手なので、こっちの方がやりやすいですね(笑)」
――逆に難しい点は?
「やり取りする人たちは、僕を外国人として見ているので、外国人の立場でビジネスをやらないといけない。『こいつは外国人だから』という接し方をされることもありますし、その国のメンタリティーを100%は共有できない。見えないけれど明確にある一線というか、そうした感覚的なところは気を付けています」
――嫌がらせなどもあるのですか?
「ないですよ。自分で言うのも変ですけど、日本人、そしてアルビレックスを尊敬してくれていますから。シンガポールは観光地として有名ですし、もともと外国人慣れしているところもありますね」
――他のアジアの国々とは違う?
「そうですね。何かを受け取ることが当たり前で、対価を支払う習慣がない国もありますから。そうなるとビジネスは難しいですね」
――バルセロナでは留学事業を展開しています。今年から「バルセロナフットボールアカデミー」としてリニューアルしましたが、その狙いは?
「世界を巻きこんでいく若い人材を生み出したいと思っています。ビジネス面などのプログラムをより実践的なものに変えて、より良い環境にしました。バルセロナは本当におすすめできる都市で、うちで留学した方の満足度も非常に高い。1年間のプログラムなのですが、毎年3割ぐらいが延長して翌年もバルセロナに残っていますし、バルセロナで会社を興した方もいます(笑)」
――バルセロナの特に良いと思う点は?
「天気が良くて飯がうまい(笑)。で、全員がサッカーファンで、すべてのベースにサッカーがある。スペインは20代の失業率が60パーセント以上ですが、週末になると彼らがグラウンドにワーッと集まって、白熱して、平日はニート生活に戻る。『サッカーの前にまず働けよ』って思いますよね(笑)。そういう街なんです。日本とは環境が全然違うので、特にサッカーにおいては得られるものが大きいと思います」
――アルビレックス新潟シンガポールを今後、どのように成長させていきたいですか?
「まずはカジノを含むクラブハウスを大きくしたいと思っています。外部環境もあるので、これからスポンサー収入を5倍にできるかというと、うちの力だけではかなり難しい。伸びしろを考えると、カジノを拡大するのが再優先です」
――カジノは誰でも開設できるんですか?
「もちろん誰でもできるわけではないです。社会貢献や地域貢献をしている一部の団体に認可が下ります。国内に8000ぐらいそういう団体があって、今認可が下りているのは80ぐらいです。うちも最初に開設するまで3年ぐらいかかりました」
――経営面においてカジノの存在は大きいですか?
「シンガポールではスポーツ事業だけではなかなか難しいです」
――一方で他のスポーツの事業展開も考えているそうですね。
「以前はアイスホッケーもやろうと思ったんですけど、場所が取れなくて。今は水泳やバレーボールなどを考えています」
――水泳は意外です。
「シンガポールの選手(ジョセフ・スクーリング)がリオデジャネイロ・オリンピックのバタフライ100メートルで、五輪史上シンガポール初の金メダルを取ったんです。1年中入れるプールがそこら中にある環境なので、水泳自体がもともと盛んな国ですし」
――これまで長期にわたって海外で仕事をされていますが、これから海外で働きたいと考えている方々にアドバイスを送るとしたら?
「例えばシンガポールってエスカレーターがめっちゃ速いんですよ。最初はビックリしたけど、日本に来ると今度は遅くてイライラする(笑)。それで『何で日本のエスカレーターって遅いんだろう』という疑問が出てくる。速くすれば輸送量が上がるし、混雑する駅のホームはその方がいいんじゃないかって思うようになりますよね。
でもそれってシンガポールに行ったから発見できることだと思うんですね。やっぱり日本にいるだけではわからないことがたくさんある。ヨーロッパに行った、アメリカに行った、ブラジルに行った、それぞれの場所で新しい発見があります。それをできるだけ若いうちに経験することで、自分の価値観が変わるし視野も大きく広がると思っています。
年を取ると固定観念が強くなるので発見が減ってしまうんですけど、若い人は『あれもすごい、これもすごい』っていろいろ発見できる。だから、若いうちにどんどん海外に出ていってほしいですね。
【了】
安田勇斗●文 text by Isato Yasuda
兼子愼一郎●写真 photo by Shinichiro Kaneko
記事提供:サッカーキング
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アルビレックス新潟シンガポール Managing Director & CEO
是永大輔(これなが・だいすけ)
携帯電話サッカーサイトの編集長として日本最大の会員数を集め、ジャーナリストとしても活躍。
バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッド、リバプールとの新規事業を立ち上げた後、2008年にアルビレックス新潟シンガポールCEO兼チェアマンに就任。
以降、独立採算で黒字経営を続け、売上規模を5倍に拡大。
スペイン、カンボジア各国リーグへの参戦や、マレーシア、タイ、ミャンマーなどにもビジネスを展開。
クラブハウスにカジノを併設するなど革新的な多角化事業を展開し、注目を集めている。
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