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UEFA EURO開催でフランスが期待する将来への礎とは?

2016年06月25日 コラム Written by 新川 諒

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 6月10日から第15回目となるUEFA欧州選手権(EURO)がフランスを舞台に開幕した。今大会は過去最多となる24カ国が参加し、前回大会に比べると8チームが増えることとなった。

 大会の盛り上がりには開催国フランスの勝ち進みも必須であり、ルーマニアとの開幕戦では劇的な勝利を収め上々の滑り出しを見せた。参加国が8カ国増えたことで前回大会より20試合多く組まれている今回のEUROは、10のスタジアムを舞台に行われている。


ⒸREPUCOM


 フランス国内ではEUROのために、新たなスタジアムの建設、そして改修工事が敢行されてきた。
 そのうちの一つは今年1月にこけら落としをしたばかりのオリンピック・リヨンのホームスタジアム「スタッド・デ・リュミエール」だ。5万9千人収容のスタジアムは13日のベルギー対イタリアをはじめ6試合を開催する予定だ。

 スタジアムに関しては、フランスサッカー連盟ではなく各クラブが責任を持って取り組んできたが、各地に新たな設備が整ったことで今後他の欧州5大リーグ(※)との経営規模の差を詰める新たな収入源として期待されている。プレミアリーグをはじめとした欧州のトップリーグと差を付けられてしまうことで選手の流失へ繋がってしまう恐れがある。次世代育成のためにも、EURO開催が再びフランスの国内リーグに活気をもたらす要因となることをフランスサッカー連盟は求めている。

(※プレミアリーグ(イングランド)、ブンデスリーガ(ドイツ)、リーガ・エスパニョーラ(スペイン)、セリエA(イタリア))

 現在フランスでは約200万人以上がサッカー人口として登録されているが、大会終了後には、その人口が増えることを見込んで新たなサッカー人口を受け入れるための準備を進めている。フランスサッカー連盟は草の根活動に力を入れ、国内各地で新たなグラウンド、そして子どもたちが参加できるプログラムの創設に奮闘している。
 フランス国内では指導者育成にも力を入れており、そのモデルはアメリカのMLS(メジャーリーグサッカー)が参考にしたいと思うほどで、フランスサッカー連盟とMLSは2013年から提携を結んでいる。そのプログラムでは、MLSのユースアカデミーのコーチがおよそ8週間の授業をグラウンド上や教室で受けるものから、実際に欧州クラブに足を運んで研修を受けるなど多岐にわたる。他国リーグが教えを受けたいと思うほど、フランスサッカー連盟の草の根活動は充実してきているようだ。

 大会の運営権はUEFAにあるため、フランスサッカー連盟が大会中に力を入れるのはソーシャルメディアを使って次世代のファンを増やす活動だ。レピュコムの調査によると、フランスのサッカーファンの90.6%はテレビを利用してスポーツニュースを得るという結果が出ているが、同時にインターネットを利用するという者もフランスでは89.2%と、両方をメディアソースとして活用していることが理解できる。一方、新聞でスポーツニュースを得ているというのは71.4%とインターネットを下回ってしまっている。

 フランスサッカー連盟は公式Facebookページには約30万人が「いいね!」で支持をしており、公式Twitterにも約50万人のフォロワーがいる。さらにはInstagramをはじめ、他のソーシャルメディアも活用して多くのファンへ情報を届けている。サッカー選手は全員が高い世評を必ずしも得るわけではなく、そのため代表チームや各クラブも良いイメージを保つのには苦労する。だが大会を通してソーシャルメディアを使うことによって、ファンと選手、そして代表チームの関係性も良い方向に持っていくことを目指す。

 そのためにはソーシャルメディアだけでなく、スポンサーの力も不可欠だ。今大会はフランスサッカー連盟初の試みとしてスポンサー企業と集結して、「#Proud to be Blue(青でいる誇り)」というマーケティング・キャンペーンを打ち出した。青とはフランスの国旗にも含まれ、代表チームのユニフォーム色を表すカラーだ。このフレーズを使って各スポンサーがどういった取り組みをするかは自由とされているが、統一したブランドを作ることでより多くフランス国民を巻き込んでいくことのではないだろうか。
 この「Proud to Blue」というのは、単純な広告用のキャンペーンだけではなく、フランス代表の情報やニュース全てを1カ所で知ることができるプラットフォームとしてインターネット上で展開している。ファンたちがソーシャルメディアとリンクして交流できる新たな場として、インターネット上だけでなく、スマートフォンで見ることが出できアプリとしても展開している。

 2015年11月に発生したパリ同時多発テロで厳重な警備体制が敷かれており、国家判断で開催予定だったイベントもいくつかキャンセルすることとなった。スポンサー企業の判断で取りやめが決まってしまった催しもあるが、UEFAの配慮でよりファンゾーンでの試み、そしてデジタルでファンと繋がる取り組みが増える大会となりそうだ。
 グループステージの戦いが終わり、ここまでエッフェル塔の真下でパブリックビューイングなどが開催されているファンゾーンは大反響のようだ。荷物や身体の検査はあるものの、入場料は無料で大会スポンサーのブースも並び、オフィシャルビデオゲーム「UEFA EURO 2016/ウイニングイレブン」を楽しむ会場も設けられている。ファンゾーンではWi-Fiも利用でき、Twitterではハッシュタッグ「#fanzonetoureiffel」で来場者にツイートしてもらうことも呼び掛けている。開催前は中止の噂も出ていたようだが、多くの警備の下、スタジアム以外でもサポーター同士の交流の場を提供している。

 スポーツの興行は開催してみないと結果が分からないビジネスである。このEUROでフランス代表にどんな命運が待ち受けているかは誰にも分からない。だからこそ国民の多くを興奮させ、共に応援することで巻き込むことができる。選手、スポンサー、そしてファンたちが望むものは勝利だろうが、フランスサッカー連盟にとっては次世代を巻き込み、欧州の他リーグと今後も競い合っていくための土台を作る大会としていきたいだろう。


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<レピュコムとは?>
スポーツマーケティングの分野における情報収集や分析、戦略化を実現するスポーツ専門のコンサルティング企業。
マーケティングとスポンサーシップにおける価値を創造するという顧客のニーズに応えることを目的に、メディアのモニターやマーケットリサーチ、さらにはファンの活動のリサーチを実施している。
2004年の設立以来、今や世界20カ国以上に拠点を持ち、1000を超えるトップブランド、代理店、ライツホルダー、メディアにデータ提供するなど、スポーツ業界の分析領域におけるグローバルリーダーというポジションを確立している。
公式サイト:http://repucom.net/jp/
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【了】

新川諒●文 text by Ryo Shinkawa

幼少時代を米国西海岸で10年過ごし、日本の中学・高校を経て、大学から単身で渡米。オハイオ州クリーブランド付近にあるBaldwin-Wallace Universityでスポーツマネージメントを専攻。大学在学中からメジャーリーグ球団でのインターンを経験し、その後日本人選手通訳も担当。4球団で合計7年間、メジャーリーグの世界に身を置く。2015年からは拠点を日本に移し、主に海外スポーツ中継に携わるフリーランスの翻訳家、さらにはフリーライターとしても活動中。


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