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サンディエゴ・パドレスの“炎上事件”が示す、欧米のスポーツ界で進むLGBTへの理解と共感

2016年06月11日 コラム Written by 川内 イオ

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 サンディエゴ・パドレスが、“炎上”している。事件は、5月21日の土曜日の夜、ロサンゼルス・ドジャースとの試合前に起きた。
 全ての試合が国歌斉唱で始まるメジャーリーグ。毎試合のことなので、市民グループが招待されて、グラウンドで国歌を披露することもある。市民グループにとって、メジャーリーグの球場で大勢の観客を前に国歌を歌うのは誇らしい体験だろう。

 21日の土曜日、国歌を披露するためにグラウンドに立ったのは男性同性愛者のコーラスグループだった。この晴れの舞台に集まったのは100人。しかし、いざ歌おうとしたところ、球場に女性ボーカルが歌う国歌が流れ、男性たちの歌声が響くことはなかった。
 この後の対応が最悪だった。
 その女性が歌う国歌が止められることもなく、男性グループが歌い直すように取り計らわれることもなく、何の説明も、謝罪のアナウンスもなく、戸惑った100人の男性たちは、ブーイングと、「女みたいに歌うんだな」という心無い嘲笑とともに、グラウンドの外にエスコートされた。パドレスはすぐさま「球場の制御室のコントロールミス」と発表し、関係者に謝罪をしたが、同性愛者差別、人権侵害の疑いで、メジャーリーグ機構、サンディエゴの検察局が動き出す事態になっている。

 この騒動でパドレスのブランドイメージが傷ついたのは確実だが、今回はあえて、パドレスがこの男性同性愛者グループを国家の歌い手として招待したのは初めてではないということに注目したい。このグループは過去に何度かパドレスの試合でその歌声を披露していて、今回までは一度も事件は起きていなかったのだ。

 これまでのLGBT(※)コミュニティーへの理解と共感を広く示そうというパドレスの行動は、高い人権意識の表れと同時に、アメリカにおけるビジネスとして不可欠の戦略でもある。アメリカでは、LGBT市場は約77兆円と言われており、LGBT層から支持を得ることはスポーツ界にとっても重要なポイントになっているのだ。

 アメリカと同じくLGBTへの理解が進み、大きな市場を抱える欧州では、昨シーズン開幕前、スペイン・サッカーリーグ1部のラージョ・バジェカーノ、3部のCDグアダラハラ、ドイツ・ブンデスリーガ2部のFCザンクトパウリが、ユニフォームに「クラブはLGBTコミュニティーをサポートする」という意味を込めて、LGBTを象徴するレインボーカラーをデザインして話題になった。

 日本でも、2012年2月に電通総研が実施したインターネット調査によると、日本の人口に占めるLGBTの割合は約5.2%、20人に1人はLGBTという計算になり、その市場は約6兆円と試算されている。
 日本のスポーツ界ではまだ全く動きが見えないが、どこよりも先駆けてパドレスや欧州の一部サッカークラブのような行動を打ち出せれば、その社会的意義は大きいだろう。

※LGBT:レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性の不一致)の頭文字をとった総称であり、狭義には、これらの限定的なセクシャル・マイノリティー(性的少数者)を指す。広義には、セクシャル・マイノリティー全体の大きな概念を指す。


【了】


川内イオ●文 text by Io Kawauchi

1979年生まれ。大学卒業後の2002年、 新卒で広告代理店に就職するも9ヶ月で退職し、2003年よりフリーライターとして活動開始。2006年にバルセロナに移住し、主にスペインサッカーを取材。2010年に帰国後、デジタルサッカー誌、ビジネス誌の編集部を経て現在フリーランスの構成作家、エディター&ライター&イベントコーディネーター。 ジャンルを問わず「規格外の稀な人」を追う稀人ハンターとして活動している。


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