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【セミナーレポート】遂に日本上陸!アジアの黒船「ONE Championship」の世界戦略

2019年05月23日 インタビュー Written by 深谷 友紀

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 世界最大のマーシャルアーツ団体「ONE Championship」が遂に日本上陸! ONE Championshipはその卓越したマーケティング手法によりアジア最大のスポーツメディアプロパティとなった。今回は、株式会社RIGHT STUFF主催セミナー『遂に日本上陸!アジアの黒船「oneチャンピオンシップ」の世界戦略』(会場:株式会社フォトクリエイト1階セミナールーム)において、ONE Championshipジャパン代表に就任した秦英之氏と、同社イベントマーケティングマネージャーの山本龍之介氏が、同団体の世界戦略、マーケティング手法、日本での活動の展望について明かした。

 ※本セミナーは2月15日に、ONE championship日本大会は3月31日に開催されているため、本記事掲載の5月23日時点から見た時系列とは異なることをご了承ください。

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第1部 ONE Championship概要:山本龍之介氏
 第1部では、ONE Championship株式会社イベントマーケティングマネージャーの山本龍之介氏がONE Championshipの概要について語った。

 山本氏は、空手から総合格闘技、グラップリングなどの団体で12年ほど活動していた。そのため、格闘技への思い入れが強く、ONE Championshipへの入社に至ったとのこと。

ONE Championshipとは?
 ONE Championshipは、ビクター・キュイ氏とチャトリ・シットヨートン氏によって2011年にシンガポールで設立された。2015年に名称がONE FCからONE Championship に変更された。2019年1月現在138カ国で放送されている。

 ONE Championshipはアジアの宝である素晴らしい文化と、深く根づいた7つの価値観、誠実(Integrity),謙虚(humility),名誉(Honor),尊厳(Respect),勇気(Courage),規律(Discipline),慈悲(Compassion)を敬愛し、アジア各国の歴史ある格闘技をアジアの文化的遺産、資産として、アジアから世界へ多くの人に知ってもらうために活動をしている。競技種類が他団体より圧倒的に多く、世界最大のマーシャルアーツ団体となっている。

 規模的にはアメリカ合衆国の総合格闘技団体であるUFC( Ultimate Fighting Championship:アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)、Bellator MMA(ベラトール・エムエムエー)、に次ぐ3番目である。

世界の舞台で活躍するヒーロー
 ONE Championshipのミッションとしては、世界の舞台で活躍するヒーローたちを生み出すことに重きを置いている。

 UFCとONE Championshipとの違いは、リングが円形になっているだけでなく、トラッシュトーク(記者会見や試合中にダーティーな言葉で相手を挑発し、心理面を揺さぶること)の排除や、個人としてのファイターというより、互いの国家を代表するアスリートとして扱うことにフォーカスしている。

 実際、ヒーローたちはどのように生まれるか? 山本氏は自身が格闘家と交流する中から分かったことは、「格闘家になる方は、格闘家にならざる得ない方が多い」と語った。貧困や人種差別などの困難な状況を変えるため、今までの競技の実績を積み上げていった末に格闘家になっていったというケースが多いとのこと。

ONE Championshipが創り上げる3つの特徴
 山本氏は、ONE Championshipが創り上げる3つの特徴として、価値観、英雄、物語を挙げ、代表的な3人の選手を紹介した。

価値観(Values)
アンジェラ・リー選手は、シンガポールの女性ファイターで女性の権限と強さの象徴でもあり、ジェンダーの平等を訴えて戦っている。その姿は多くの人々を刺激し勇気づけている。

英雄(Heros)
アウンラ・ンサン選手はミャンマーで唯一、スポーツで世界王者になった人物であり、国全体が彼を英雄扱いしている。

物語(Stories)
エドワード・フォラヤン選手は貧困で5人の兄弟姉妹を失いながら、現状を打破するため世界チャンピオンを目指し、そして王者となることで不可能なことはないと証明した。

ONE Championship日本大会について
 山本氏は今回開催されるONE Championship日本大会の見どころについて注目選手を挙げながら語った。

 今大会はタイトルマッチが4カードある。これまでONE Championshipでは1大会につきタイトルマッチは1つであったため、類を見ない大会になるとのこと。

 4つのタイトルマッチは以下のカード。

バンタム級世界タイトルマッチ
ケビン・ベリンゴン vs ビビアーノ・フェルナンデス

女子ストロー級世界タイトルマッチ
ション・ジンナン vs アンジェラ・リー

ライト級世界タイトルマッチ
エドワード・フォラヤン vs 青木真也

ミドル級世界タイトルマッチ
アウンラ・ンサン vs 長谷川賢

 これらの中でメインとされているのは青木真也選手の試合だ。青木選手もなるべくしてなった格闘家だという。関節技中心の柔道家で、柔道界では異端児だった。必要以上に相手を傷つけ、好き嫌いが分かれる選手だった。大学時代に日本の総合格闘技団体の修斗(しゅうと、英: Shooto)で世界王者になるなどのずば抜けた実績を持つ日本を代表する選手でもある。ONE Championshipの関係者の間でも多くの議論がなされたが、ONE Championshipに参戦してからは態度に大きな変化が起きているとのこと。

 また他にも、別の格闘技団体からの移籍などで注目される選手の試合が多いとのこと。「今回のONE Championship日本大会は全てがゴールドカードです」と山本氏は語った。

質疑応答
Q.チケットの売れ行きを教えてください。
A.非常に良い売れ行きで、最終的には完売になる見込みです。

Q.本社、日本支社の役割分担はどうなっているのでしょうか?
A. チームを組んで運営しているシンガポール本社がハンドリングしている。日本支社の役割は、日本に合わせた市場アプローチ、マーケティング調整を行うマーケティングオフィスとしての役割です。

Q.日本開催はどんな狙いがあるのでしょうか? また、ビジネスモデルは?
A.日本初興行としては、ブランド構築と知名度の向上です。多くの人に知ってもらうためのPRです。

第2部 ONE Championshipのビジネスについて:秦英之氏
第2部ではONE Championshipジャパン代表の秦英之氏がONE Championshipについてビジネス的な側面から語った。

ONE Championshipの着目点:どこにビジネスチャンスがあるか?
 アメリカ、ヨーロッパ、アジアと見たときに、アジアの経済規模はアメリカと比較しても劣らずに大きいと感じている。一方、スポーツビジネスにおいて、アメリカのプロリーグはアメフトだけで820億ドルと大きな規模で展開されているが、アジアでは1000億ドルに近い大規模のプロリーグは少ない。それはスポーツビジネスの歴史の背景からきている。

 このような状況の中、格闘家であり、タイ人の父親と日本人の母親の間に生まれたチャトリ・シットヨートン氏は、ハーバード大学でMBAを取得し、金融業界でも成功を収めた。社会に何か恩返しをしたいと考えたときに、アジア5000年の武道の歴史とアジアの価値観を大事にするとともに自身が大好きな格闘技の普及するために、強い想いをもって、このONE Championshipを設立した。

ONE Championshipが創り上げる3つの特徴(価値観、英雄、物語)を繰り返し伝える

 山本氏の説明とも重複するが、ONE Championshipを創る上で、非常に大切にしている3つの基軸は価値観、世界に通じるヒーローをつくる、物語(ストーリー)をしっかり伝えることを繰り返し展開している。

 子どもたちに格闘技を教えることは、殴り合うためではなく、武士道精神などの価値観をしっかり教育するためである。コンテンツとして伸びていったアメリカの格闘技で見失われていたものが、アジア発の格闘技にはあるのではないかと考えているので、ONE Championshipでは価値観を非常に大切にしている。

 スポーツヒーローといえば欧米のスター選手を思い浮かべることが多い。そこに疑問を持った中で、アジアの多種多様な格闘技を通じてアジア出身の世界に通じるヒーローを増やしていくことを使命としている。

 あくまでも基盤はアジアだが、他の地域の国々のチャンピオンも登場する。ONEという意味は、みんな(世界)を一つにする大事さ、一番になる大事さ。男女問わずアジア発のプラットフォームをつくり、どこの国の選手がヒーローになっても応援しようという姿勢で臨んでいる。

 物語(ストーリー)を伝えることは日本ではまだまだと感じている部分である。秦氏は、ONE Championshipはマーシャルアーツの価値観・本質を次世代に伝えたり、夢を与える方が非常にうまいと感じているという。

 秦氏は自身が関わっていた日本のアメフト界での経験から、日本のマイナースポーツは、お金がない、人気がないからビジネスとして成立するのは難しいという発想になりがちであったが、ONE Championshipで行われているストーリーを伝える手法等をうまく取り入れることで、日本のマイナースポーツでもビジネスとして成立させることができるのではないかと考えたとのこと。

「今回引き受けた背景には、本質の価値を伝えていくこと、継承していくこと、独りよがりで考えずにスポーツ産業をしっかりつくっていくという想いを込めて、一つ一つ組み込まれている内容を広げていきたい」と語った。

ONE Championshipのビジネス的な側面について
 ONE Championshipの地上波における視聴率は、2014年に1.2%であったものが、今では11%から87%まで伸びている(フィリピンで50%、ミャンマーで87%の視聴率が記録されている)。アウンラ・ンサン選手がミャンマー国民の前でロシア最強王者を破って王者になるなど、アジアにおける世界に通じるスーパーヒーローが誕生したことが大きなポイントであるとのこと。

 またONE Championshipでは、ソーシャルメディア(SNS)を活用した戦略を重要視している。動画再生回数が今では40億回に伸びている。各メディアプラットフォームに多くの動画をアップしているのが一つの特徴。シンプルにより多くの人にどう見てもらうかを考えている。格闘技は短い時間で終わるコンテンツでデジタルに合う。このためデジタルデバイスを使いこなす若年層には届きやすい。またデジタルだと数字がはっきり把握しやすい。いかに多く使われているSNSにコンテンツを流し込むかを徹底している。今後も市場が伸びるほど広告収入が増え、価値が上がるなど成長が見込める。

 コンテンツ単体で見てもイベントごとの視聴者数は意外にもNBAを超えているとのこと。1大会当たり2千万以上の視聴者がいる。現在138カ国で放映されているが、より多くの人たちが見られる環境づくりを展開している。アジアではクリケットの視聴者数が多いが、近い将来には超える見込みで、3年以内にスーパーボウルの視聴者数である1億人を目指しているとのこと。 

 ONE Championshipの視聴者層は、男女比が7:3、ミレニアム世代が半分を占め、71%が大卒、14%が独身層となっている。企業が非常に注目している世代に視聴されているため、グローバルに展開しているさまざまな上場企業がスポンサーについている。透明性、フェアな考え方、明確なビジョン、実績を積むことによって多くのスポンサーを獲得できているとのこと。

「このようにONE Championshipでは非常に論理的にビジネスを考えていると感じている。ここで得たノウハウをどうやって広げていって日本のスポーツビジネス界の発展に寄与できるかが自分のミッションと考えている」と秦氏は語った。

 チャトリ・シットヨートン氏は、チャンピオンのマインドを育てることにこだわっている。「勝ったからすごい」ではなく人間性を重んじている。過去にはさまざまな物議を醸してきた経緯を持つ青木選手にもチャトリ・シットヨートン氏は厳しく接して、「チープな選手になるな」などの激励をするなど、人間性の大事さについて時間をかけて説いている。このチャンピオンの人間性もスポンサーシップにおけるブランド確立などに用いられている。

 日本企業の多くはスポンサーシップにおいてアクティベーションができていない。原因は、これまでは広告を売り切って終わっていたが、アクティベーションを行うとコスト効率が悪いという考え方があった。このアクティベーションをうまく行うことで日本のスポーツビジネスが潤うのではないかとのこと。

 ONE Championship は、2019年に45大会が予定され、日本では3月31日に両国国技館で行われる。

ONE Championshipの株式会社について
 ONE Championshipという会社について、シンガポール本社は非常に風通しが良く、社員には気持ちの若い人が多い。シンガポール国内外問わず世界最高峰の人材を集めている。

 半年前、日本でスポンサー営業を展開したときは先入観からか各社に否定されていたが、スタッフが本質を一つ一つ丁寧に伝えていく努力を重ねた結果、見方がガラッと変わり、電通、Abema TV、テレビ東京など、徐々にスポンサーが付き始めていった。

 本質を大事にして、理解してもらうためには、一つ一つ丁寧に説明しなければ人は変わらないことを秦氏は日々感じさせられているとのこと。

 また、ターナー・スポーツ社がアメリカ企業として史上初めてアジアの放映権を買いにきたということも起こっている。いよいよアジアから欧米へ進出する時代が来た。

日本として期待できること
 ONE Championshipジャパンで、日本でも名が知れているスーパースターのデメトリアス・ジョンソンを招いたイベントの募集をしたところ、24時間で400人の応募が殺到し、イベント当日は大盛況に終わった。

 秦氏は草の根の普及活動も大きなポイントと考えている。ONE Championshipは、修斗と提携し、条件を満たせば、留学費用の負担やONE Championshipに参戦できる権利などの支援を行っていく。同様に他団体との連携を増やし、底辺を広げていくことが大事だと考えている。

 すでにONE Championshipが支援する修斗の地方の大会で多くの子どもたちが参加するようになり、地方の方々の目標ができることで盛り上がりを見せている。秦氏は、どうやって互いが成長できるかというエコシステムをつくっていくことが大事だと感じている。

 またこれらの団体の選手にとっては、ONE Championshipに参戦することで、報酬が一桁変わってくるため、年間で勝ち続けると億に届く報酬も可能となることが一つの魅力である。このように、事業モデルとしてしっかり選手が報酬を得られる仕組みをつくることが大事である。また、競技だけでなく、映画界など競技以外の分野に選手を進出させることも大事なポイントである。

 秦氏は「スポーツビジネスとして、ONE Championshipを定着させることが我々のミッション。そしてよりエコシステムが回る仕組みを、格闘技のみならずスポーツ界全体として取り組んでいきたい」と語りセミナーの最後を締めた。

質疑応答
Q.スポンサーシップはどのように行われるのでしょうか?
A.現状では日本独特の風土が各競技、ビジネス界にあるので、良い面、課題を把握しながら丁寧にウィンウィンでやっていくことが大事だと考えています。海外のスポンサーシップの発想も場合によっては大事だとも考えています。

Q.事業規模に関して、将来的な計画を教えてください?
A.大会開催自体で拡大していくのには限界があります。草の根活動のエコシステムを回すことの両輪で全体の市場を広げていこうと考えています。また、グローバルの市場も現在の138カ国から194カ国へ広げていきます。グローバルの市場価値を上げることで国内の需要も広がります。これらを3年から5年かけて行っていく予定です。

Q.国内の選手で興味のある選手はいますか?
A. 武尊選手の他3人くらいいます。青木選手にも期待しています。

Q.市場規模はどれくらいを目標としているのですか?
A.既存の日本プロスポーツリーグの規模が第一目標です。

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<講師プロフィール>
秦英之(はた・ひでゆき)
ONE Championshipジャパン代表
1972年生まれ。明治大学卒。大学卒業後、ソニー株式会社で働く傍ら、アメリカンフットボール選手としてアサヒビールシルバースターで日本一を経験。同社に2012年まで在籍し、FIFAとのトップパートナーシップ等、全世界を束ねるグローバル戦略の構築を担当。2010年FIFAワールドカップをはじめ、数々のFIFA大会を絡めた活動を推進。その後、スポーツデータリサーチ会社であるニールセンスポーツの北アジア代表と日本法人の代表として、スポーツスポンサーシップに対する投資価値を同社独自の方法で評価・測定。Jリーグマーケティング委員も務めている。2019年2月より世界最大のマーシャルアーツ団体「ONE Championship」の日本代表に就任。
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<了>

深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。


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