【セミナーレポート】サッカー×カニ「サッカニ」 なぜJクラブが地元名産品をプロモーションするのか~地方創生とスポーツの関係~
2018年11月08日 インタビュー 地域振興/社会貢献 Written by 深谷 友紀
地方Jクラブはサッカーだけやっていても生き残れない。
そんな危機感から、地元名産品を積極的にプロモーションしているガイナーレ鳥取を東京で応援しているのが、現在フリーランスの立場からプロスポーツクラブが地方を元気にするプロジェクトを発足させている安部未知子氏だ。今回はその安部氏をお迎えし、セミナー『「サッカニ」なぜJクラブがカニをプロモーションするのか ~地方創生とスポーツの関係~』(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:株式会社フォトクリエイト1階セミナールーム)で、地方創生とスポーツの関係について熱く語っていただいた。
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■どうして「カニ」をプロモーションしているのか?~Jリーグのフトコロ事情
安部氏は、東京ヴェルディ、京都サンガF.C.と2つのJクラブで営業等として従事してきた経験から、「クラブの収益確保は非常に難しいことだが、これなくしてはクラブの発展はない」ことを知った。
そして、その救世主となってくれる存在が紅ズワイガニだったという。
なぜカニが救世主となるのか?
安部氏はそこにたどり着く過程を語り始めた。
■Jリーグのフトコロ事情
初めに、Jリーグの現状のフトコロ事情について語ってくれた。
1993年にJリーグが誕生し、今年で25年目。開幕当初の10チームから現在ではJ1で18チーム、J2で22チーム、J3で14チーム(U-23チームを除く)とカテゴリも2つ増え、チームも全体で54まで増えている。2016年ではJ1、J2、J3、YBCルヴァンカップを合わせた入場者数は1079 万人。過去最高の観客動員数を記録したが、全54チーム中14チームが単年赤字で、2期連続赤字は4チーム。
一般企業と比較しても経営状態は厳しい。また、クラブライセンス制度により、大きなスポンサーがない市民クラブは今まで以上に安定した収益源確保が必要となっている。
2017年よりDAZN放映権の巨額の分配金があるものの傾斜分配のため、J1クラブとの格差が大きくなってきている。地方の市民クラブは首都圏のクラブと違う色を出していかないと存続の危機にさらされる。
さらに、以下のJリーグ理念をふまえ、地方におけるサッカークラブの在り方として、自律的収益確保が必要であり既存事業の向上は必須で、同時に新たな事業創出が重要になっていくという。
Jリーグ理念
・日本サッカーの水準向上及び普促進
・豊かなスポーツ文化の振興及び国民の心身の健全な発達への寄与
・国際社会における交流及び親善への貢献
「Jリーグ百年構想」のスローガンや、「DO! ALL SPORTS」のキャッチフレーズ、各クラブのホームタウン活動は、これまではJリーグ・クラブを知ってもらうための活動であったが、これからは我が街の課題解決の活動にまで及ぶ必要がある。
今年でリーグ開幕25周年を迎えたJリーグ。これまでは、「Jリーグは地域社会の一部である」という考えのもと、まずはJリーグを知ってもらう活動に注力していたため、我が街の課題解決は間接的なものが多かった。
しかし、地域密着を目指すJクラブだからこそ、地方創生の一角を担う存在になることができるはずだ。Jクラブが我が街にあるからこそ、多岐にわたる社会課題を共に解決し、地域を活性化する仕組みづくりができると安部氏は考えている。
「"Jリーグ・スポーツを活用して街の課題解決をすること"が私の夢」と安部氏は語った。
■鳥取県ってどんなところ?
安部氏は学生時代にガイナーレ鳥取でインターンシップを経験した。当時のガイナーレ鳥取はJFLに所属していて、社長含めクラブスタッフは3名ほどで運営されている状況だった。
安部氏自身、Jリーグのために何かできないか?と考えていた時に、「鳥取の人、地方の人は、地方で抱えている課題に対して、『できない』『やれない』という諦めがある。だったらサッカークラブでその課題を解決しよう!」と日々奔走していたガイナーレ鳥取代表取締役社長塚野真樹氏(以下、塚野社長)の言葉に感銘を受け、「ガイナーレ鳥取と共に鳥取を盛り上げたい!!」と思うようになったとのこと。
では鳥取県とはどんなところだろうか?
鳥取県は全国47都道府県中、面積は7番目に小さく、人口は最も少ない。市の数も最も少なく4市である。県庁所在地は県東部の鳥取市。
そんな鳥取県は、人口数、企業数、飲食店数が全国で最下位で、街自体、潤うところがなく、地方都市を象徴するような経済低迷に直面している。
また、鳥取県には以下の課題点があると説明した。
・鳥取県の人口は、自然減に加えて県外への転出が拡大しており、今後、地域社会の活力減退が懸念される。
・小規模事業者が多く、地域経済は低迷を続けている。
・有効求人倍率も低迷し、若年層の早期退職や非正規雇用が増加し雇用のミスマッチが発生。
・一人当たりの県民所得は、233万円(2014年度)で、全国46位。
・高速道路ネットワークなどのインフラ整備は著しく遅れている。
・法人税に重きを置く都道府県収入は減少し、地方交付税の減額による厳しい財政状況。
■ガイナーレ鳥取について
ではそんな鳥取県にあるガイナーレ鳥取とはどんなチームであるのか?
ガイナーレ鳥取は、2001年に日本フットボールリーグ(JFL)に加入し(当時・SC鳥取)、現在J3リーグに所属しているプロサッカークラブである。鳥取市にある「とりぎんバードスタジアム」と米子市にある「チュウブYAJINスタジアム」がホームスタジアム。
ガイナーレ鳥取は、「野人の食べて昇格プロジェクト!!」として、クラブに応援金を送ると返礼品として地元の名産品であるカニや牛肉が送られるプロジェクトを展開している。また、遊休地活用事業としてスタジアム建設や国内では数少ない無農薬の芝生を開発したオーガニック芝生事業展開「Shibafull(しばふる)」、社会事情により外遊びができない子どもたちのために「復活!公園遊び」を実施するなど、地域の課題解決のためにさまざまな企画をかけ合わせながら事業を行っている。
なお、「野人の食べて昇格プロジェクト!!」は、元日本代表でもある代表取締役GM岡野雅行氏が広報、営業を兼ねてガイナーレのために鳥取の地域のために奔走しているとのこと。
2018年10月21日現在、ガイナーレ鳥取はJ3で6位。平均観客動員数は約2700人。経営状況はJ3の中ではまずまずであるが、J2、J1と昇格していくとなると厳しい状況にある。しかし人口における入場者数でみると11番目に高く(2018年6月時点)、集客努力は活発に行われているクラブである。
「ガイナーレ鳥取を含め、地域の市民クラブはこのような経営状況にあるため既存事業にとどまらず新たな事業創出も急務だと思っている」と安部氏は語った。
ではガイナーレ鳥取の強みはどういうところであろうか?
ガイナーレ鳥取は、Jクラブとして各メディアとのリレーションがとれた全国への情報発信力がある。また、地域の良いところ悪いところを熟知し、地域ステークホルダーとの良好な関係性がある。そして県内で誰もが知る知名度がある。特にサッカーファンの間では全国レベルの知名度がある。スタジアムとクラブハウスといった人が集まる場所を保有していることなどの強みがある。
「ガイナーレ鳥取の特性を活かして地元産業の活性化ができる、地元産業が活性化することでクラブも活性化する」と安部氏は考えている。
具体的には、鳥取県内の名産品(農林水物・加工)を情報発信力のある Jクラブ(ガイナーレ鳥取)を通じてプロモーションすることで情報発信・販売促進につなげることが挙げられる。
■Jクラブ ×地方都市&産業
安部氏の仕事は、Jクラブと地方産業のタイアップ案件を創出後、人口が集中する首都圏でイベント開催や、販路拡大できるようプロモーションを展開している。
このような活動により、Jクラブが地元産業の活性化に一役を担うことで地元産業が元気になり、地元産業が潤うことでJクラブが元気になり、全国のJクラブが地元産業の活性化に貢献することで、サッカーが日本を元気にするスポーツへと昇華できるのではないかと安部氏は考えている。
■鳥取県のカニについて
「鳥取のカニはおいしい、素晴らしい」と安部氏は声を大きくして語る。
県内の美しい環境中で大切に育てられた農林水産物のなかでも、ズワイガニは全国水揚げ量の 1・2位を争うほど。鳥取県では「蟹取県」として「カニ」を全県あげて注力する商材としている。
鳥取県内でとれる「カニ」は 2種類あり、松葉蟹でおなじみの高級蟹として知られるズワイガニ。もう一つが「紅ズワイガニ」。深海に生息し、9/1~翌年6/30まで漁期がある。「深海に住んでいることから寄生虫もなくあたらない、身は甘みがあり、水分の多いカニであるとのことで地元の人にはおやつ代わりに親しまれてきた。
しかし以前は、多くの水揚げがありつつ管理方法が整備されていなかったため、日本の有名市場に流通していなかった。現在では品質管理が徹底され、加工品としてではなく、カニ丸々1枚の姿モノとして日本全国に流通できるようになった。
安部氏はこのガイナーレ鳥取が応援している「紅ズワイガニ」に目をつけ、市場に流通していない安くておいしい「紅ズワニガニ」をより多くの人に知ってもらおうと活動をしている。
以上のような経緯を経て、安部氏がアピールする「サッカニ」プロジェクトが企画された。
安部氏は「サッカークラブを通じて、地方創生、地方課題解決できるのではと思っているので、今後も少しずつでもそういった活動を展開していきたい」と語って講演の最後を締めた。
■質疑応答
講演後に設けられた質疑応答の時間は、多くの質問が長い時間絶え間なく続いたが、安部氏は質問一つひとつに丁寧に回答した。
以下は主要な質問と回答の抜粋。
Q.サッカニプロジェクトの中で難しかった点は?
A.このプロジェクトは今年の5月から始まったので、まだまだこれからというところです。
Q.カニがとれない時期は?
A.紅ズワイガニ取れない時期は7~8月で、その期間は冷凍物があります。
Q.どういう人が注文しているのですか?
A. 東京で「サッカニ」をより多くの方に知ってもらえるようイベントやBtoB向けのプロモーションを行っています。
Q. Jクラブ(東京ヴェルディ、京都サンガF.C.)の中で女性がスタッフとして働くことに問題なかったのでしょうか?
A.自分自身が体育会的な気質だったので気にはならなかったですし、女性ということでクラブ地域のマスコット的にかわいがられていて男性よりは営業で入りやすいと私は感じていました。
Q.なぜ独立して地域クラブのサポートをするようになったのでしょうか?
A.結婚・出産を機に東京にいながら何か地方クラブの支援ができないかと考えていました。
セミナー後の交流会では、セミナー参加者全員が鳥取産の紅ズワイガニを堪能した。普段のセミナーならば活発な歓談で盛り上がるところだが、紅ズワイガニに夢中になってしまうほどのおいしさであった。
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<講師プロフィール>
安部未知子
大阪体育大学でスポーツマネジメントを専攻したことをきっかけに、東京ヴェルディ、ガイナーレ鳥取でのインターンシップを経験。2005年から東京ヴェルディ㈱事業部に新卒で入社し、スポンサー営業やチケット販売に従事する。2010年に出身地である㈱京都パープルサンガに転職し、営業部でスポンサー営業やイベント企画を展開。結婚、出産を経て㈱BNGパートナーズでスポーツクラブのコンサルタントに従事する。現在はフリーでプロスポーツクラブが地方を元気にするプロジェクトを発足させ、日々奮闘中。
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【了】
深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。
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