スポーツボランティアで感じた経営的視点の必要性 『ヨハン・クライフ大学』オンラインコース修了・西聡司さん
2018年01月22日 インタビュー その他 Written by 吉田 直人
サッカー元オランダ代表の故・ヨハン・クライフ氏が設立したスポーツビジネススクール『ヨハン・クライフ大学』。同校のオンラインコースを、この程会社員の西聡司さんが修了した。同時期に修了した唯一のアジア人だ。東日本大震災をきっかけに、自分自身にできるスポーツ界への貢献を模索してきた西さん。競技ボランティアを経て芽生えたスポーツビジネスへの志向、並行して取り組む障がい者サッカー普及活動への活用などについて話を伺った。
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■きっかけは東日本大震災
西聡司さんは現在、会社員と並行して、日本アンプティサッカー協会事務局員の顔を持つ。アンプティサッカーとは、下肢切断者が『クラッチ』と呼ばれる杖を両手で使用しながら行うサッカーで、7競技ある障がい者サッカーの内の1種目だ。西さんは同競技の協会スタッフとして、イベント運営等に携わっている。
西さんがスポーツビジネスに関心を持った端緒は、2011年の3月11日にさかのぼる。東日本大震災が発生し、国内が暗澹(あんたん)としている中で、日本の活性化に寄与したいという思いから、スポーツに活路を見いだしたのだった。
「楽天イーグルスの嶋(基宏)選手の『野球の底力』発言(※)を聞いて、なるほど、と。まずFC東京をはじめとしたスポーツチームや大会のボランティアを始めて、次第にスポーツビジネスを学びたいという気持ちが芽生えました。ボランティアも大切ですが、それだけではスポーツが産業として成り立ちませんから。例えば規模の小さなクラブだと、ボランティアを労働力として見ざるを得ない一面もあり、結果としてボランティアが変にプレッシャーを感じたり、楽しめなかったりするという状況を聞いたりもして。それならクラブを経営的に安定させないといけないし、そうでないとスポーツが文化として浸透することもないのかな、と。だからスポーツをビジネスの側面から見てみたいと思ったんです」
(※2011年4月2日、プロ野球パ・リーグ東北楽天ゴールデンイーグルス所属の嶋基宏選手が、東日本大震災の復興支援のために開催された慈善試合前のスピーチにおいて「見せましょう野球の底力を」と発言した)
スポーツビジネスのプログラムを受講することを思い立ったものの、「仕事を持っているので平日に通うのはちょっときつい」。土日だけ開講しているプログラムも国内では見つからず、必然的に選択肢は海外に絞られた。最終的に、ヨハン・クライフ大学の他、レアル・マドリードが運営するスポーツビジネスのMBAコースが残った。
「結局最後まで選べず、先に受け入れてくれた方に行こうと、申し込みの締め切りが早いヨハン・クライフ大学に先立って問い合わせたら、トントン拍子に話が進んで、入学できることになってしまいました(笑)」
■土日返上で課題をコツコツ
プログラムはフットボールに限らず、オリエンテーションを皮切りに、ファイナンス、イベントマネジメント、デジタルマーケティング、スポンサーシップなど多岐にわたる。各教科のスタイルには、出題される課題を期限までにこなしていくというものもあれば、オンライン上のスレッドを利用したグループメンバー同士の議論や、共同ワークを行うものもある。
「一つひとつ課題を片付けていかないと次のステップに進めない。各教科には『チューター』と呼ばれる担当が付いていて、課題の評価はチューターが行います。課題についてアドバイスを請うこともできます。最終的には『マスター・ファイナルプロジェクト』という、卒業課題の提出が求められます。ただ、いろいろな課題をこなしていくうちに、次第に脱落する受講生も現れて、当初は30人程度いた生徒も、最後は私を含めて10人ぐらいでしたね。Facebookでつながってコミュニケーションを取った同窓もいましたが、アジア人は自分だけ。ちょっと寂しかった(笑)」
本業の会社員との両立にも苦労した。「土日は朝から晩まで自宅にこもって課題と向き合う日々だった」という。
「その分、やり遂げたことは自信になりました。駆け足だったので、しっかり血肉になったかといえばまだ復習が必要ですが、一通り網羅した、という自負はありますね。基本は押さえられたので、あとは実践かな、と」
■競技団体でのポストを実践の場に
コースの卒業課題は自身が携わるアンプティサッカーをテーマに選んだ。まずレポートを提出し、その後、ハングアウトを利用して試験官とレポートの内容についての面談をこなし、晴れて修了となった。レポートでは、アンプティサッカーにおけるイベントのファシリテーション等について触れたという。
ヨハン・クライフ大学オンラインプログラムで得た学びを、今後はどのように生かしていくのだろうか。
「日本のアンプティサッカーを世界一にしたいですね。競技レベルだけでなく、普及度や、事業規模の観点でも。以前までは、スポーツボランティアの経験しかなかったので、イベント運営や、資金調達までそもそも気が回らなかったわけです。コースを受講してから、そういった側面はもちろん、ソーシャルメディア等デジタルツールの活用にも意識が向くようになりました。スポーツビジネスの大きな特徴は、〝不確実性を売る〟ということだと思う。勝負に絶対がないように、何が起こるか分からないからワクワクする。アンプティサッカー以外にも、競技間の繋がりを増やして、スポーツに興味を持つ人を少しでも増やしていけるように、視野を狭めず、チャンスがあればさまざまなことにトライしたいですね」
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[Profile]
西聡司(にし・さとし)
特定非営利活動法人 日本アンプティサッカー協会 事務局 事業担当
日本スポーツボランティアネットワーク 上級リーダー
1970年東京都生まれ。サッカー、バスケットボール、陸上競技など多くのスポーツに取り組み、100mの自己ベストは10秒台、走幅跳は7m台の記録を持つ。ソフトウェア開発会社の総務部管理職として勤務する傍ら、2012年にプロサッカーチームFC東京にてスポーツボランティア活動を開始。以降、多数のスポーツチームや大会の運営ボランティアを精力的にこなし、2017年より日本アンプティサッカー協会の事務局員となる。勤務先でもスポーツの楽しさを伝えるべく、参加者約130名の社内フットサル大会の運営を一手に担っている。
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【了】
吉田直人●文 text by Naoto Yoshida
1989年生まれ。中学~高校まで陸上競技部に所属。大学時代は学内のスポーツ新聞記者として活動し、大学駅伝やインターカレッジを始め、陸上競技を中心に取材。卒業後、2012年より広告代理店にてインターネット広告業務に従事。2016年に退職後、現在フリーライターとしてスポーツを中心に活動中。
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