【セミナーレポート】今スポーツ界で求められている人材像とは? 『プロスポーツビジネス 私たちの成功事例』
2017年09月12日 インタビュー その他 Written by 新川 諒
今、スポーツ界を彩るトップランナーたちがSAPジャパン株式会社本社に集結し、『プロスポーツビジネス 私たちの成功事例』出版記念特別イベント第2弾が、スポーツをビジネスにしたい人のための最速講座「MARS CAMP」を手掛けるマーススポーツエージェントと、同書を刊行した東邦出版の共催のもとで開催された。
さまざまな経験の持ち主である6名の登壇者がスポーツ界を目指す者たちへ自らの経験を伝え、スポーツ界に今必要なことを唱えた。イベントは懇親会を含めると三部構成で開催され、それぞれの分野を突っ走るトップランナーたちが学生、そして社会人と100名ほどの参加者に、無限に広がる可能性を提供した。
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<第一部:スポーツ×人材 スポーツ業界に必要な人材とは?>
第一部では株式会社ビズリーチ代表取締役社長を務める南壮一郎氏と、UEFA(欧州サッカー協会)のマーケティング代理店「T.E.A.M.マーケティング」の岡部恭英氏によってスポーツ業界に求められる人材をテーマに語った。
現在日本が抱える高齢化、そして人口減少という2つのマイナス要素を解決できるのは“人”であることを強調し、南氏は東北楽天ゴールデンイーグルス創設メンバーとしての活動、そして現在人材ビジネスに関わる経験からスポーツ界を目指す人間たちに貴重なアドバイスを送った。
2019年ラグビーワールドカップ、そして2020年東京オリンピック・パラリンピックが日本を舞台に繰り広げられることから、今スポーツ界にとって優秀な人材の確保は急務となっている。2年後、3年後に開催が迫っているため、スポーツビジネスについて基礎からじっくり教育している時間はなく、大会運営に価値をもたらすことのできる即戦力が求められている。自らが代表取締役社長を務める株式会社ビズリーチでもラグビーワールドカップ2019組織委員会の経営人材の公募を行い、必要な人材像について「スポーツ好きである必要はない、むしろスポーツ好きはマイナス点ともなり得る」と話した。各業界のエース級の人材が理想であり、ラグビーワールドカップに限らずスポーツ界全体としても、いかにして経営のスペシャリストを引っ張ってこられるかが鍵となることを指摘した。
楽天イーグルス創設時には、プロスポーツ業界の事例だけに目を向けるのではなく、同じように「キャパシティのある箱を埋める」事業を営むディズニーランド、映画館、ホテル、居酒屋、そしてカラオケボックスなどの成功事例を参考にしていたと語った。これらの場所をベンチマークにすることで今までとは違ったビジネスの視点やプロ野球観戦の楽しみ方を生み出し、その後も、試合ごとにチケットの価格が変わるダイナミック・プライシングを導入したり、スタジアム周辺に観覧車をつくるなどビジネスとエンタメの双方の面に長けた球団経営が目立っている。
実際に足を運ぶ人々が何を求めているのか、その本質をつかめる人こそ、日本のスポーツビジネス界が本当に必要としている人材像だといえるだろう。
(写真:左から、ビズリーチ代表取締役社長・南壮一郎氏、T.E.A.M.マーケティング岡部恭英氏、マーススポーツエージェント仲島修平氏)
<第二部:ラリーガ祭り!リーガ・エスパニョーラ×ビジネス>
第二部ではFCバルセロナの国際マーケティング部で働いた経験を持ち、現在は公益財団法人日本サッカー協会(JFA)の特命室に所属している斎藤聡氏が、バルセロナのビジネスモデルについて語ってくれた。2002-03年には72億円の赤字を抱えていたクラブがどのように再生し、世界有数のクラブとして世界中の人々に愛されるようになったのか。それを可能とした経営改革について紹介し、進化(evolution)ではなく革命(revolution)を起こし続けるバルセロナモデルが明らかになった。
(写真:元FCバルセロナ国際マーケティング部・斎藤聡氏(取材当時・JFA特命室))
バルセロナのビジネス構造について学んだ後は、世界を代表するダービーマッチ、バルセロナとレアル・マドリードによるエル・クラシコ場外編が開催された。バルセロナで働いた経験を持つ斎藤氏に加え、最大のライバルであるレアル・マドリードのニューメディアビジネスコミュニティー・マネージャーを務めている酒井浩之氏も自らの道のり、そして世界を代表するクラブでの現場の話も紹介してくれた。
場外ダービーはエル・クラシコだけではなく、15歳単身でスペインに渡りアトレティコ・マドリードのユースチームでもプレーし、現在サッカー解説者を務める玉乃淳氏も加わることでマドリードダービーも展開された。実際にスペインサッカーを肌で体感したからこそ、日本サッカーに今欠けていることを明確に伝えてくれた。
さらには株式会社TSUBASA代表取締役を務め多くのサッカー媒体に関わり続けている岩本義弘氏、そして岡部氏も加わってのトークセッションが展開された。話題は海外で戦っていく術、日本とスペインサッカーの違い、そして事前に寄せられた質問や当日会場での質疑応答に対して熱い議論が展開された。
トークセッションで強調されたのは、ピッチ上でもスポーツビジネスの世界でも、日本ではまだスタイルが確立されていないということだ。玉乃氏は最近訪れた古巣アトレティコ・マドリードで、15年前と同じ練習が展開されている様子を目の当たりにしたことを語った。長い歴史と伝統から一定のスタイルが確立されている。だがそれを維持するだけではなく、ピッチ上においても革命(revolution)を続けている。日本でも、ピッチ上においてもスポーツビジネス界においても、海外と比較をするのではなく、まずは独自のストラクチャー(構造)を構築していくことが求められるのではないだろうか。
(写真:左から、株式会社TSUBASA代表取締役・岩本義弘氏、サッカー解説者・玉乃淳氏、岡部恭英氏、レアル・マドリード ニューメディアビジネスコミュニティー・マネージャー酒井浩之氏(取材当時)、斎藤聡氏)
<第三部:会いたい人に聞きたいことを全部聞く!(懇親会)>
第三部ではトップランナーたちの共通点ともいえる、“Take Action(行動に移す)”を実践する者が多くいた。今回のイベントには学生、そして社会人1年目の参加者も多く、懇親会においてもトップランナーたちから何かを盗もうと、彼らの前には長蛇の列が続いていた。
最初の登壇者だった南氏から、バルセロナ、レアル・マドリードというビッグクラブで働くことを実現させた斎藤氏、酒井氏、そして世界最高峰の大会UEFAチャンピオンズリーグにアジア人として初めて携わっている岡部氏、それぞれに共通していることは、やりたいことを実現するために積極的に行動へと移したことだった。
こういうイベントはどうしても参加することで満足をしてしまうことが多い。その日に受けた多くの刺激、時には出会いなども持ち帰り、大きく成長した気になってしまう。だが実際には、登壇者のように行動に移さないことには何も始まらない。名刺交換をして、ソーシャルメディアで友達になったことだけに満足するのではなく、数年後には自分が登壇者としてスポーツ界を引っ張る立場になるというだけの気概が必要だろう。それこそ、現在日本のスポーツ界を牽引しているトップランナーたちをも追い越すだけの活躍をみせることができれば、日本のスポーツ界はさらに大きく成長していくことができるのではないだろうか。
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<登壇者プロフィール>
岡部恭英(おかべ・やすひで)
T.E.A.M.マーケティング テレビ放映権/スポンサーシップ営業 アジア・パシフィック&中東・北アフリカ地域統括責任者
T.E.A.M.マーケティング テレビ放映権/スポンサーシップ営業 アジア・パシフィック&中東・北アフリカ地域統括責任者
スイス在住。サッカー世界最高峰UEFAチャンピオンズリーグに関わる初のアジア人。UEFA(欧州サッカー協会)マーケティング代理店「TEAM マーケティング」にてテレビ放映権/スポンサーシップ営業に携わる。スポーツビジネスアカデミー(SBA)アドバイザリー・ボード、筑波大学院国際スポーツアカデミー(TIAS)特別講師。共著「国際スポーツ組織で働こう!」。
南壮一郎(みなみ・そういちろう)
株式会社ビズリーチ 代表取締役社長
米タフツ大学卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社。2004年、楽天イーグルスの創業メンバーとなる。その後、株式会社ビズリーチを創業し、2009年4月、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を開設。人材領域を中心としたインターネットサービスを運営するHRテック・ベンチャーとして、若手社員のためのレコメンド型転職サイト「キャリアトレック」、AI技術を活用した戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」、求人検索エンジン「スタンバイ」なども展開。
斎藤聡(さいとう・さとし)
公益財団法人日本サッカー協会 特命室 部長代理(取材当時)
大学卒業後に伊藤忠商事に入社し、食料関連事業を担当。退職後、ESADE(スペイン)でMBAを取得し、FCバルセロナの国際マーケティング部でクラブの国際化に尽力。その後、アジアサッカー連盟のマーケティングダイレクター、日本サッカー協会の特命室の部長代理を経て、現在はオリンピックのスポンサーアクティベーションを専門にしているGMRマーケティングに所属。
酒井浩之(さかい・ひろゆき)
レアル・マドリード ニューメディアビジネス コミュニティ・マネージャー(取材当時)
大学卒業後、広告代理店やスポーツブランドに勤務。2015年3月にレアル・マドリード・スポーツマネジメントMBAコースに日本人として初めて合格し、その後、レアル・マドリード C.F. ニューメディアビジネス コミュニティ・マネージャーを務める。現在は退職し帰国。
玉乃淳(たまの・じゅん)
サッカー解説者(元アトレティコ・マドリードユース)
元プロサッカー選手。ヴェルディ下部組織で育ち、15歳で単身スペインに渡り、アトレティコ・マドリードのユースチームに加入。帰国後、Jリーグ数チームに所属し、25歳の若さで現役を引退。史上最年少のサッカー解説者に就任し、多数のテレビ番組に出演中。また、自身がプロデュースする「FOOTBALL×CAREER」をテーマに発信するWebメディア『TAMAJUN JOURNAL(タマジュンジャーナル)』を開設。
岩本義弘(いわもと・よしひろ)
株式会社TSUBASA 代表取締役
株式会社TSUBASA代表取締役/編集者/インタビュアー/スポーツコンサルタント&ジャーナリスト/サッカー解説者。株式会社フロムワンにて『サッカーキング』『ワールドサッカーキング』など、各媒体の編集長を歴任。国内外のサッカー選手への豊富なインタビュー経験を持つ。
<NAVIGATOR>
仲島修平(なかじま・しゅうへい)
株式会社マーススポーツエージェント MANAGER
1984年生まれ、東京都出身。08年まで企業の外部人事部機能を担い、企業経営における人材開発・採用戦略の立案・導入を行う。08年よりMARS立ち上げ参画。アスリート・プロチームのマネジメント、スポーツイベントプロデュースなど、社内事業を横断的に従事し、10年より立ち上げた、「MARS CAMP」商品企画・広報も担当。新卒・中途共にスポーツ業界内企業の外部人事部として活動しながら、体育会系人材の就職支援やアスリートと企業を結ぶセカンドキャリア支援など、スポーツとキャリアをトータルでプロデュースする。
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【了】
新川諒●文 text by Ryo Shinkawa
幼少時代を米国西海岸で10年過ごし、日本の中学・高校を経て、大学から単身で渡米。オハイオ州クリーブランド付近にあるBaldwin-Wallace Universityでスポーツマネージメントを専攻。大学在学中からメジャーリーグ球団でのインターンを経験し、その後日本人選手通訳も担当。4球団で合計7年間、メジャーリーグの世界に身を置く。2015年からは拠点を日本に移し、主に海外スポーツ中継に携わるフリーランスの翻訳家、さらにはフリーライターとしても活動中。
野口学●写真 photo by Manabu Noguchi
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