米国の3月を彩るのはWBCではなく、マーチマッドネス
2017年04月19日 コラム 大会/イベント運営 Written by 新川 諒
ワールドベースボールクラシック (WBC) が開催された3月、私は米国にいた。実はWBC開幕を日本で過ごしたのは今大会が初めてだったが、メディアや周囲での盛り上がりにはあらためて驚かされた。4大会目の開催となったこの大会は米国でも人気が高まっているのではと期待して足を運んだが、実際にその様子は街中ではあまり見られなかったのが現実だった。
準決勝の日本対米国戦も雨の影響があったとはいえ、空席が目立っていた。ドジャースタジアム周辺では大会が開催されていることがうかがえるバナーなどが備え付けられていたものの、会場以外でその盛り上がりを肌で実感できる場面は少なかった。
米国が2次ラウンドを戦っていた時、アリゾナのスポーツバーで試合を観戦する機会があったが、店員にチャンネルを変えてもらう必要があるほど、他の画面は別のスポーツに独占されていた。
米国の3月を彩っていたのは、全米大学バスケットボール選手権のマーチマッドネスだった。NCAA男子ディビジョン1バスケットボールへの関心度は3月になると、大幅に向上する。昨年大会のデータにはなるが2015-16年シーズンも例外ではなく、ニールセンスポーツのレポートによると、11月のシーズン初めに比べ、3月には79%も関心度が増加している。このトーナメントの視聴者の76%は大学在学経験以上の学歴があり、そのためか7万5000ドル(約818万円)以上の所得を持つ人が52%までに上る。これは多くのプロスポーツの視聴者層を上回る。
マーチマッドネスが盛り上がる要因の一つとしては、所得のある層の多くがブラケット(対戦表の予想)に参加するからだろう。ニールセンスポーツによると、42%が社会との交流をブラケットに参加する理由と挙げている。39%は賞金を稼ぐためと答えてはいるが、友人、家族、同僚と喜びを分かち合うためという理由も38%に上っている。家族や友人と一緒に参加する人は、その他の仕事仲間やパブリックフォーラムで参加する人、またはグループに属さない参加者に比べ、2倍近くに上がっている。
お金に執着せずに単純に仲間と楽しむ層が多く参加する。そのためバスケットボールに詳しくない人でも参加でき、マスコットやチームカラーの好みで勝者を選ぶ。意外にバスケットボールを熟知している人が考え過ぎて予想を外し、何も考えずに好みのマスコットで勝者を予想した人の方が正解率が高かったりする。
あまりなじみのない人たちからすれば、大学バスケットボールを賭けの対象とするという“悪”の見方が存在するかもしれないが、仲間うちで開催するブラケットにその印象はない。ああでもない、こうでもないとみんなで予想して、夜はスポーツバーでビールを飲みながら盛り上がる、最高のつまみとなる。
マーチマッドネスのさらなる盛り上がりの要因としては、全米を巻き込む規模の大きさだろう。指名による出場権を得た60チームに加えて、8チームが最後の枠を勝ち取るために対戦する。勝ち上がった4チームを含め、計64チームが全米選手権に参加する権利を得る。さらには、そこにたどり着くまでのリーグ戦やトーナメントが盛り上がりをつくり出す。全米選手権が開幕すれば何日にもわたって、同時刻に試合が開催される。そのためいくつもフォローする手段が必要となる。
ブラケット参加者のうち71%は、テレビでトーナメントを観戦し、24%がPCで得点をチェックする。大学時代には、同時刻に開催される試合を友人たちと観るためにいくつもの画面を開いて全試合を追跡していた。これだけライブで観る人が多くいるのは、メディアが細分化されモバイルファーストとなりつつある時代では驚異的だ。複数のテレビを用意するのが難しい場合は、スポーツバーに行けばその手間を省くことができる。そうなるとWBCを放送しているテレビ画面を探すのも一苦労なのが、うなずける。
大学時代にはWBCを観ようと試合開始時刻にチャンネルを合わせたが、バスケットボールの試合が延長戦に入ってしまい日本戦のプレーボールを見逃すといったこともあった。当時に比べれば、WBCを取り巻く環境も大きく変わったが、他のコンテンツとバッティングしないためかは分からないがWBCの米国内での放映権はケーブルチャンネルのベースボールネットワークが保持している。米国内にいても、試合を観ることができないという声も実際に上がっていたぐらいだ。
まだ4回目を終えたばかりの大会で発展途上にあることは間違いないだろう。全米を盛り上げるマーチマッドネスも1939年にスタートした時は8チームの戦いにしかすぎなかった。テレビ中継が開始された1969年から何度も放送局が変わるなど、試行錯誤を繰り返して今の形にたどり着いている。
米国の3月をこれからも彩っていくだろうマーチマッドネス。WBCが今後、マーチマッドネスに対抗していくだけの進化を、どのように遂げていくのか期待していきたい。
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<ニールセンスポーツとは?>
世界最大のリサーチ会社ニールセンが2016年6月21日、スポーツ視聴測定、メディア評価およびマーケットインテリジェンスなどのスポーツマーケティングリサーチ&コンサルティングサービスをワンストップで提供する世界最大企業レピュコムを買収したことにより誕生。
グローバル規模でのスポーツ関連サービスを拡大、成長著しいスポーツ市場におけるアナリティクスやインサイトの提供においてトップの地位を確立する。
スポーツに対するスポンサーシップ投資は現在、世界規模で 600億ドルとますます成長しており、ニールセンスポーツでは、スポンサーシップ効率からファン層データの可能性に至るさまざまなソリューションを、ニールセンの消費者行動およびメディア利用に関する知識と組み合わせられる、という理想的な立場を生かして、事業の商業的な成功の最大化を支援している。
公式サイト:http://nielsensports.com/jp/
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【了】
新川諒●文 text by Ryo Shinkawa
幼少時代を米国西海岸で10年過ごし、日本の中学・高校を経て、大学から単身で渡米。オハイオ州クリーブランド付近にあるBaldwin-Wallace Universityでスポーツマネージメントを専攻。大学在学中からメジャーリーグ球団でのインターンを経験し、その後日本人選手通訳も担当。4球団で合計7年間、メジャーリーグの世界に身を置く。2015年からは拠点を日本に移し、主に海外スポーツ中継に携わるフリーランスの翻訳家、さらにはフリーライターとしても活動中。
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