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オランダナショナルチーム専属アナリスト・白井裕之氏が語る“サッカー分析” 「オランダに学ぶ“サッカー分析”」~第2回~

2016年12月14日 インタビュー Written by サッカーキング

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 SJNでは、サッカー総合情報サイト「サッカーキング」のご協力を得て、記事提供を頂いております。

 今回は、オランダの名門アヤックス、およびオランダ代表の育成年代の“専属アナリスト”として活躍する白井裕之氏のインタビュー記事の第2回をお届けします。

第1回はこちら⇒https://sjn.link/news/detail/type/report/id/107

(出典:サッカーキング『オランダナショナルチーム専属アナリスト・白井裕之氏が語る“サッカー分析”「オランダに学ぶ“サッカー分析”」/第2回』2016年12月7日)

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 ヨハン・クライフやマルコ・ファン・バステンといった象徴的な選手が礎を築き、今もなお脈々と受け継がれているものこそが、オランダサッカーである。彼らはいつの時代でも唯一絶対の哲学を世界に示し続け、そして人々をフットボールの虜にしている。

 現在、「アヤックス育成アカデミーユース」、「オランダ代表U-13、U-14、U-15カテゴリー」という2つの職場で“専属アナリスト”として活動する白井裕之氏も、オランダサッカーに魅了された一人である。白井氏は少年時代、地元・愛知県内のクラブチームでプレーしながら、名門・アヤックスのサッカーに衝撃を受け、オランダへの思いを募らせていく。そして18歳で指導キャリアをスタートすると、その道をさらに突き進んでいくために、大学卒業後の24歳で渡蘭した。

 そこで気付かされたのは、オランダがオランダたるゆえんである。現場で指導経験を重ねた後、アヤックスで分析を担当する“アナリスト”という専門職に出会い、「サッカーを分析し、サッカーの内容を指導できる」という、確立された“サッカーの仕事”の価値を思い知る。

「サッカー分析」の前提となるのは、指導者が扱う“用語”の意味と言語が統一され、全員がピッチ上で起きる事象に対して共通認識を描けること。指導者のオリジナリティーの部分である「戦術」とは、そうした分析の土台があって初めて築いていけるものなのである。

 これは、なぜオランダが世界的なスタープレーヤーや名チームを生み出すことができるのか──という問いの答えの一つであり、非常に重要な考え方に違いない。白井氏は、この分析こそが、現在の日本サッカーにおいて絶対的に足りていないものだと痛感している。

 オランダサッカー協会(KNVB)で推奨される分析理論をベースに、より現場で共有できるものへと体系化させた白井氏独自の枠組みが、「The Soccer Analytics(ザ・サッカーアナリティクス)」だ。これは“新理論”ということではなく、オランダ人に学び、日本人の指導者が共有しておくべき、“基本理論”なのだという。

 指導者のみならず、サッカーに携わる全ての人に触れてもらいたいインタビューの第2回は、白井氏がオランダサッカー界で認められ、「サッカー分析」というテーマにたどり着くまでの基盤となる経験に迫る。

■サッカーではなく、選手や親との関係づくりから

──キャリアのスタートとなったU-12のチームにはどのように入ったのでしょうか?

「知り合いに教えてもらって入れたアマチュア中のアマチュアのクラブでした。選手もオランダ人だけではなく、トルコ人、モロッコ人、ブラジル人などがいるようなところです。オランダ語もたどたどしいですし、子どもたちも多感な時期でしたから、例えばウォーミングアップでグラウンドを1周してトレーニングを始めようという時に、子どもたちが戻ってこないことがザラにありました(苦笑)」

──前途多難なスタートですね(笑)。

「オランダならではなのですが、彼らは指導者に対して、何を教えてくれるのか、どうやって良くしてくれるのかなど、こちらと同等レベルに立って見ています。日本やドイツのように、指導者や先生など目上の人を非常にリスペクトするということではなく、『なんであいつの下でトレーニングしないといけないんだ』っていう見方なんですよね。ですから、リーダーとして最初にやるべきなのは、子どもたちを納得させることです。『私が来たことでサッカーがうまくなる』、『楽しめる』、『試合に勝てる』ということを最初の2週間くらいで示さないとチームとして成り立たなくなるんです。

 そういうこともあって、最初のシーズンはむちゃくちゃでした。言葉のこと、オランダサッカーの世界を知らなかったことで、貴重な機会ではありましたが、とても人に見せられるような指導ではありませんでした」

──そこで“失敗”をされて、翌シーズンはどうされたのでしょうか?

「違うクラブを探しました。オランダ人しかいないような小さな村のような場所を見つけて、そこのクラブにコーチとして入りました。最初のシーズンよりは格段に良くなったと思います」

──それはどのような部分でしょうか?

「まずはサッカーの言葉を説明できるレベルが上がりました。オランダ人の前で話をするという簡単なことなのですが、これが実は重要なんです。例えば試合前のロッカールームで、目の前の20人の子どもたちにオランダ語で話ができるかどうか。発音などもすごく難しくて、少しでもおかしいと、『今から戦うぞ』っていう雰囲気が壊れてしまいます。そういうこともあって、このシーズンは、相手に理解してもらい、許容してもらい、僕という人間を認めてもらうことから始めました。

 親御さんと子どもを呼んでミーティングをして、やりたいことや約束事などの十カ条を書面で渡して、『熱意はあるけれど足りないところもあるからサポートしてほしい』と伝えました。選手には、これを絶対に守れるかといった内容を契約させるようなこともしたので、最初のハードルはかなり下がったように思います。シーズン前からすごく気を使って準備しましたね」

──最初は、サッカーのことよりもまず、関係性が大事なのですね。

「そうですね。サッカーの内容については、プレシーズンからつくっていくので、そこはまた別の機会に約束事などを紙に書きました。僕は結構、そういう作業が好きなんです。失敗を受けてどのようにまとめるのか、それができなかった時にどのようにすべきかを考えた上での方法です。

 小さな村でしたから、日本人の指導者が来て、ちょっとアクセントのあるオランダ語で話をしていると、最初はみんな笑うのですが、もうちょっとすると、みんな興味津々で寄ってくるんです。子どもたちが、僕のオランダ語の発音に慣れるということが最も大事だったのかなと思いましたね」

──それだけたくさんの会話をされたんですね。

「最初の数年は、本当に何度も恥をかいて、冷や汗をかいていましたよ」

■アマチュアクラブで手にした成功

──アヤックスに入るまでは、いくつのクラブを経験したのでしょうか?

「4つのクラブです。3つ目のクラブでU-17年代の監督をしたのですが、そこでの成功が、今のポジションにいられる土台になったと思います」

──具体的に指向していたサッカー、指導メソッドなどもあったのでしょうか?

「オランダ人は誰もが、『ゲームを支配して攻撃的なサッカーをする』と言うのですが、僕はその細かな部分をトレーニング中にたたき込むような形です。3つ目のクラブに移る時にはもう、選手をコントロールできて、何があっても負けないくらいの自信を持てていたので、かなりサッカーに踏み込んでいました。普段は下位にいるようなチームが、いきなり1年目で優勝できて、2年目、3年目も優勝争いをさせてもらえました。

 その時に、変わったやつがいるぞ、サッカーの内容もすごく良いという評価をもらって、最終的に4つ目のクラブに移りました。その時に僕をヘッドハントしてくれた方が、その後、アヤックスのアマチュアチームの監督になるバルト・ローヒスという人物でした。バルトはKNVBの指導教官をされていて、UEFA Aライセンスの教官もされています。その人が何度も僕の指導を見に来てくれて、『お前のトレーニングのやり方は面白いね』と言ってもらえたことが、アヤックスへとつながりました」

──具体的には、どのような部分を評価されたのでしょうか?

「戦術的なところだと思います。戦術をトレーニングにどのように落とし込むのかという内容については、KNVBに戦術トレーニングの基本があって、ライセンス取得にはそれをしっかりと実践できるかどうかが大きく合否に関わります。しかし案外、そのやり方は毎日の準備に時間がかかって面倒だったりするんです。ですから僕は、ドリル的な基本となるところを、できるだけサッカーの状況でやることに特化する方法を作ってしまいました。

 アマチュアクラブでも攻守において戦術的なトレーニング、サッカーのトレーニングをしていることを面白いと思ってもらえたのかなと。一般的なトレーニングだと、ボール扱いはうまくなっても、それをどのように使って戦うかが分からなくなるのですが、そういうトレーニングをしていると、子どもたちは試合ですべきことが全て分かるようになるんです」

──トレーニングを、試合に臨む手段としてアプローチしていったのですね。

「そうですね。これは自分を売り出すためにも必要だったと思いますし、それがうまくいったのかなと思いますが、ただ何よりも、選手のクオリティーに助けられました。最終的にプロになった選手が2人いたのですが、当時、そのクラブに17歳まで所属していてプロに行くのはありえないことで、そういう意味でも僕は運が良かったなと思います。日本ではあまり運は良くなかったのですが、オランダでは運が良いなと、自分でも思います(笑)。アマチュアクラブに選手は呼べないのですから、目の前にいる20人の選手のクオリティーと、親御さんもすごく良い方たちでしたから、本当に恵まれていたと思います」

(第3回へ続く⇒)https://sjn.link/news/detail/type/report/id/113

【了】

小松春生●文 text by Haruo Komatsu
記事提供:サッカーキング

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オランダ代表チーム専属分析アナリスト
白井裕之(しらい・ひろゆき)

1977年生まれ、愛知県出身。高校までサッカーを続け、18歳から指導者の道を歩み始める。24歳でオランダに渡り、複数のアマチュアクラブの育成年代のコーチ、監督を経験。卓越したトレーニングメソッドを評価され、2011-12シーズンからアヤックスのアマチュアチームへ。ゲーム・ビデオ分析担当を任された後、2013-14シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストに就任した。オランダサッカー協会(KNVB)の分析メソッドを、より現場で共有できるものへと体系化させた「The Soccer Analytics(ザ・サッカーアナリティクス)」は日本の多くの指導者も実践。2016年10月からオランダ代表U-13、U-14、U-15カテゴリーの専属アナリストに就くなど、コーチングと同様、指導者のバックボーンを持つ分析力に絶大な信頼が集まる。KNVB指導者ライセンスTrainer/coach 3,2(UEFA C,B)を取得している。

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