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【セミナーレポート(2015.7.14)】どうなるのか? 新国立競技場の建設計画問題

2015年10月13日 インタビュー Written by 管理者

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 われわれの税金で建設され、2020年の東京五輪だけでなく、2020年以降も国民の大事な資産として残り続けるであろう新国立競技場。

 迷走を続けた建設計画問題は、2015年7月17日、安倍晋三首相によって現行案の白紙撤回が表明されたことで、いったんの決着を見た。しかし、あくまでも計画の見直しが決まっただけである。これからも注目して新国立競技場の行方を見続けるためには、そもそも今回の問題とは何だったのか? 何が原因で起こっていたのか? それをいま一度、整理する必要があるだろう。

 そこで、安倍首相による計画見直し表明の3日前となる7月14日、02年の日韓ワールドカップ(W杯)時に大分スポーツ公園総合競技場(現・大分銀行ドーム)のコンペ審査員を務め、またスタジアムアドバイザーとして、札幌ドーム、東京スタジアム(現・味の素スタジアム)、埼玉スタジアム2002の建設に関わった伊藤庸夫氏をゲストに迎えて開催されたセミナー、『どうなるのか? 新国立競技場の建設計画問題』(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:株式会社フォトクリエイト 3階セミナールーム)の内容を元に、今回の問題を振り返りたい。

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――今回の新国立競技場の建設計画問題について、伊藤さんはどう感じているのでしょうか?

「非常にお粗末だと思います。02年日韓W杯時に多くのスタジアム建設に関わった経験からすると、今回の新国立競技場の建設計画に関しては、スポーツという観点が抜け落ちていると感じます」

――いったい何が問題だといえるのでしょうか? その核心部分は何だと考えられますか?

「大きく分けて、4つの問題があったと考えています。まず1つ目は、行政組織による稚拙なプロジェクト運営です。当初五輪に向けては、東京都が晴海にメインスタジアムを建設する予定でしたが、国立競技場の改築案に乗る形となってからは、事実上この案は消滅しました。文部科学省や日本スポーツ振興センター(JSC)には、大型プロジェクトの運営に関する経験が不足しており、専門家がおりません。スタジアム建築のような大型プロジェクトには、計画、コスト分析、コンペのやり方、業者の選定、契約やネゴシエーション等、さまざまな専門知識や経験が必要で、それらを身に付けるには最低でも10年はかかります。2~3年で担当が変わる彼らには、そもそも無理な話なのです」

――なるほど。それでは2つ目の問題は何でしょうか?

「それはデザインコンペにあります。今回のコンペではしかるべき手順が踏まれていません。本来ならば、予算がいくらで、使用目的が何かを明確にしておくべきなのですが、今回はデザインありきの考えでコンペが進められたように感じられます。完全に出発点を間違えています。」

――確かに屋根部分の巨大なキールアーチが、予算や工期の問題で大きなトピックとなっていますね。では、残る2つの問題は一体何でしょうか?

「コンペの審査員が、果たして適切なメンバーだったのか疑問です。審査員のリストを見るとスタジアムの機能面から話ができるプロがいません。例えば、スタジアムへのアクセス、ホスピタリティー、セキュリティー、ピッチやトラック、付帯設備といった要件について検討されていません。

 最後は、契約の問題です。スタジアム建設のようなプロジェクトの場合、海外では通常、ターンキーベースと呼ばれる、設計から建築まで全体を見渡せるコンサルタントが最初から最後まで責任を持つ方式が取られます。私が関わった大分スポーツ公園総合競技場もターンキーベースで行われました。しかし、今回の新国立競技場に関しては、建設会社の設計も取り入れられるプロポーザル方式をとっている。建設費が高騰しているのは、随意、契約ベースで入札が行われているためと考えられます(※)」

(※日本のプロジェクト建築契約の通例で、施主の設計諸元、建設、設計管理、詳細設計とそれぞれで入札契約(随意契約もあり)をするが、通常の大型新規プロジェクトでは建設工事会社のノウハウなくして設計事務所だけでは設計できない現実があるため、癒着や談合が生まれやすい)

――技術的な問題についてはいかがでしょうか? 本当に建てられるのでしょうか?

「いくつかの問題が考えられますが、そのうちの1つに、キールアーチ問題があります。長さ370mのアーチが2本で、総重量は3万t、高さは70mで、さらに30mの地下にも及ぶ巨大なアーチの組み立て工事用の敷地が確保できていません。また、アーチを立てるための基礎部分が大江戸線の国立競技場前駅にぶつかってしまいますし、耐震についても考えられていません。キールアーチはシンボル以外の何物でもない無用の長物です。

 屋根は開閉式を計画していますが、これはコンサートなどの音楽イベントでの使用を見据えて遮音性を重視したもので、材質は従来のスタジアムで使用されているテフロン素材ではなく、重量、コスト高の問題があります。また、開閉部分の形状からピッチの芝の育成、管理費用が増大します」

――外観だけでも問題だらけですね。

「現時点では、スタジアム内部のさまざまな機能の設計がどうなっているのかも分かりません。防災についてもまだ考えられていないように思われます。屋根よりもこちらの方が重要です。

 また、陸上、サッカー、ラグビーの併用にも問題があります。FIFA(国際サッカー連盟)基準、JFA(日本サッカー協会)基準、IAAF(国際陸連)基準、日本陸連基準の全てを満たすのは厳しい。サッカーとラグビーについても、ピッチの大きさや芝の長さにはそれぞれ規制があり、例えば芝の長さはサッカーが1インチであるのに対して、ラグビーは2インチですので、併用は無理なのです。海外ではサッカー専用とラグビー専用でスタジアムを分けて造られるのが通常です」

――なるほど、現行案では現実的に不可能なのではないかと感じます。どうにかして止める方法はないのでしょうか?(7月13日現在)

「今年6月29日に、下村博文文科省大臣が、現行案で進めると表明しましたが、それを撤回することですね。ただこの人は(2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会会長の)森喜朗氏には頭が上がらないので、可能性は低いでしょう。JSCに丸投げになっている状態で、果たしてできるのかどうかも疑問です。最終的には、安倍首相次第でしょうね。遠藤利明国務大臣、舛添要一都知事が止める可能性もあるかと思います。あるいは都から国に対して、500億円という都負担に対する住民監査請求や建設差し止め請求をするという手段も考えられますが、時間がかかってしまうので現実的ではないですし、勝ち目はないでしょう」

――初代スポーツ庁長官就任が噂される川淵三郎氏はどうでしょうか?

「Jリーグチェアマン、日本サッカー協会会長を歴任し、現在はバスケットボール界の救世主となっている川淵氏なら期待できるかもしれませんが、初代スポーツ庁長官に就任するまでは賛成・反対のどちらともコメントしないでしょうね」

――アスリートから反対の声を上げることに、リスクはあるのでしょうか? 試合に出られなくなるのではないかといった不安の声もあり、現状ではためらっている状態です。

「選手が声を上げることは大歓迎ですね。選手がプレーできないという不安は全くないと思います。代表に選出されなくなるといったリスクもないでしょう」

――この問題に対して、われわれにはいったい何ができるのでしょうか?

「アスリートが声を上げてくれること、マスコミに大きく取り上げてもらうことなどがあります。そして東京都民が立ち上がり、都知事を動かすことにも期待したいです。基地問題で揺れた沖縄の例もありますし、住民投票というやり方もあります。いずれにせよ、今年いっぱいがメドになるかと思います」

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 セミナー終了後、伊藤氏を囲んで懇親会が行われた。さまざまな意見が飛び交う様子からは、この問題に対して自分も何か力になりたいという参加者の思いが感じられた。

 前出の通り、結果的にはこの3日後に、安倍首相によって建設計画の見直しが表明された。しかし、本当のスタートはこれからである。適切な建設費用の下で、明確な将来へのビジョンを持ち、スポーツ界のみならず国民みんなが幸せになれる、素晴らしい新国立競技場が生まれることを祈りながら、完成するまでの間、継続して注目していきたいものである。


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<講師プロフィール>
伊藤庸夫(いとう・つねお)
 1941年、東京都生まれ。80年 からロンドンに駐在し、日本サッカー協会の国際委員として活躍、90年代初頭にはJリーグ発足に向けたプロジェクトに参加した。94年に帰国し、サンフ レッチェ広島の強化部長に就任、同年に1stステージ優勝を経験している。その後、2002年ワールドカップの招致プロジェクトに従事。大分県スポーツ公 園メインスタジアム審査会審査委員に、札幌ドーム、埼玉スタジアム2002、東京スタジアム(現・味の素スタジアム)、Jビレッジの設計アドバイザーを務 め、日本のスタジアム建設の多くに関わる。04年よりびわこ成蹊スポーツ大学でスポーツマネージメント教授、07年からはSAGAWA SHIGA FC(現在活動停止)のGMに就任し、JFLで2度の優勝を飾る。
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