【セミナーレポート】ドクター高須が支援したナイジェリアサッカーの現状と可能性~支援で大きな役割を担ったナイジェリアサッカークラブの日本人オーナーが語る顛末と背景~
2016年10月20日 インタビュー チーム/リーグ経営 Written by 深谷 友紀
それは1本のツイートへの返信から始まった。
「ナイジェリアを支援したい。誰かルートを持っている人はいないか?」
資金難でリオ入りできないサッカー・ナイジェリアチームに対して高須クリニック院長の高須克弥氏が支援の意思をツイート。これに対し、ナイジェリア5部リーグ所属のイガンムFCオーナー加藤明拓氏が反応した。その後この物語はまるで映画のような展開で転がり始め、予想もしなかった結末を迎える…。
9月14日、その加藤氏をゲストに迎えたセミナー、「ドクター高須が支援したナイジェリアサッカーの現状と可能性~支援で大きな役割を担ったナイジェリアサッカークラブの日本人オーナーが語る顛末(てんまつ)と背景~」(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:株式会社フォトクリエイト 3階セミナールーム)が開催された。ドクター高須の支援の顛末はもちろんのこと、そもそもなぜナイジェリアのチームのオーナーになったのか、ナイジェリアサッカーの現状と可能性、そして加藤氏の夢でもある「メッシ超え、バルサ超え」についてじっくりとお伺いする。
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■カンボジアンタイガーFC買収からイガンムFC共同オーナーまでの経緯
●カンボジアンタイガーFCについて
加藤氏が2015年に買収したカンボジアンタイガーFCは、
「カンボジアの夢と希望と勇気の象徴となり、国民の生活に欠かせない心の潤いとなる」というミッションを掲げている。
カンボジアンタイガーFCの選手が先生になってサッカー教室を開いたり、毎年5,000個のボールを配ることや、孤児院の子たちをホームゲームへ招待するなどの活動などもしている。
加藤氏がカンボジアンタイガーFCのオーナーとなって精力的に活動していった結果、今では、子どもの将来の夢が掃除夫からカンボジアンタイガーFCのサッカー選手へと変化してきている。
来シーズンは首都プノンペンからアンコールワットにホームタウンを移転する計画がある。
●ナイジェリアについて
加藤氏は高須氏の事件の顛末について話す前に、ナイジェリアについての現状を説明した。
カンボジアリーグにはアフリカ人選手が15人ぐらいいる。昨年、カンボジアンタイガーFCの監督が退任する可能性があるという話があったので、加藤氏は彼らをマネジメントできるコーチを探していた。
コーチを探している過程で、ナイジェリア人のエバエロ・アバヨミ氏(以下バヨ氏)に出会った。バヨ氏はNPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブでアシスタントコーチの経験もあり日本にも10年くらい住んでいる。バヨ氏とは、監督就任の件ではタイミングが合わなかったが、後にバヨ氏から、氏がオーナーとなったイガンムFCと加藤氏のカンボジアンタイガーと提携したいという話を持ち掛けられた。加藤氏はその話を検討するためにナイジェリアについて詳しく調べたという。
ナイジェリアは、人口およそ1.8億人、平均年齢は18歳、GDP24位(2015年)の国である。サッカーはFIFAランク67位(最高5位)でアフリカ随一のサッカー大国である。旧首都ラゴスは、世界三大危険都市と恐れられ、周辺国の犯罪者の多くはナイジェリア人だという。サラフィー・ジハード主義組織ボコ・ハラム(Boko Haram)がテロや外国人拉致事件を起こしているなど、危険な国だというイメージがある。そんな悪い噂ばかりのナイジェリアだが、加藤氏は「これはすごくチャンス!」と感じたとのこと。
手ごたえを掴んだ加藤氏は、業務提携からバヨ氏と共同オーナーとして基本合意に達したとのこと。
合意に達した後、加藤氏はナイジェリアに赴き、クラブオフィスがあるゲットーを訪れた。ゲットーは非常に貧しい地域であったが、加藤氏はイガンムFCの選手たちからエネルギーを感じたという。
イガンムFCの共同オーナーとして、イガンムFCの選手を育てて日本を含む海外へ移籍させるなどの考えを加藤氏が持っていることを聞いたNFF(ナイジェリアサッカー協会:Nigeria Football Federation)は、加藤氏を支持し、応援してくれているとのこと。
加藤氏が最終的に正式にイガンムFCの共同オーナーとなることを最終提案したのが2016年7月のことだった。
■高須ナイジェリア事件の顛末
1996年のアトランタオリンピックのサッカーで金メダルを獲ったナイジェリア代表は、今回のリオデジャネイロオリンピックに臨むにあたり、縁起の良いアトランタで事前合宿を行った。しかし、スポーツ庁から出るはずだったオリンピック関係の資金が未払い、NFFからも監督の給料未払い(5カ月くらい)、というダブル未払いが続いたことから選手たちがボイコットすると騒ぎ出したことから始まる。
このような状況下で試合開始3~4時間前にブラジル入りしたナイジェリア代表は、オリンピックの初戦で、5-4で日本を下すなどで決勝トーナメントにコマを進めたが、決勝トーナメントは本当にボイコットするというニュースが流れた。
このニュースを聞いた高須クリニック院長高須克弥氏はナイジェリア代表を気の毒に思いTwitter上でナイジェリアを支援したいというツイートをし、大きな話題となった。
加藤氏はこのツイートに対し、Twitter上でナイジェリアサッカー関係者と引き合わせができるという反応したところ、高須氏とやり取りが始まった。
まず、NFFへ高須氏の身分を証明する説明レター送ることとなった。これは、NFFがマネーロンダリングに使われることを危惧し、高須氏の素性を明らかにするためのものであった。
加藤氏がNFFとやり取りを進めている一方で、高須氏のもとには、イギリスの国営放送局BBCで活躍する記者Oluwashina Okeleji氏から、NFFではなく大使館を通した方が良いとアドバイスがあり、大使館の協力を仰ぐこととなった。
しかし、加藤氏のもとには、バヨ氏から、「元大使はメイド3人の給料半分をピンハネしていたこともあり、大使館の人間は悪い人たちだからNFFを通した方が良い」という助言もされていた。
結果的にナイジェリア大使館を通してはうまくいかなかったため、高須氏は直接手渡すことを決意した。加藤氏はブラジルで高須氏と合流することとなり、再度NFFのエスコートを依頼することとなった。ところが、大使館側がエスコートを任せてほしいと言い出した。そしてエスコートしてもらうはずだったNFFの人間は現れなかった。加藤氏は大いに混乱したという。
二転三転したものの、最終的には無事合流でき、大使館のエスコートによりスタジアムに着くことができた。そして小切手渡す段階になった時に大使館の人間とミーティングを行った。ミーティングでは、スポーツ大臣と大使が自分たちを通して渡せと強く主張するなど非常に緊迫したものだったという。
加藤氏は「ナイジェリア人は普段は陽気だが、お金の話になった瞬間顔つきがライオンに変わる」と語った。
ようやくナイジェリアチームに支援金を渡すことができたが、現場を見た加藤氏は、「実は雰囲気は非常に悪かった。銅メダルを取ったチームの雰囲気じゃない」と感想を述べている。
今回の件で、加藤氏とNFFとの繋がりが深まり関係性が深まったとのこと。加藤氏は高須氏との件でNFFは裏切らないという確信があったという。7月のイガンムFCへの出資の件でNFFにメリットをもたらしたことが背景にあるとのこと。
高須氏の件が落着し、加藤氏の1泊5日リオデジャネイロの旅が終了したが、加藤氏とナイジェリアの関わりは終わりがない。
■イガンムFCのミッション
加藤氏は、イガンムFCのミッションにとして以下の2つを掲げている。
・ナイジェリアのスラムの希望の星となる。
・犯罪・ドラッグをナイジェリアからなくす。
ナイジェリアのサッカー選手にとって海外への移籍は夢である。スラムでは日常的に犯罪が起こっているが、サッカー選手たちは、一獲千金を夢見るため、そして家族や近隣の人たちのためになんとしても海外へ移籍したい、と考えているので犯罪を起こさないという。
「2000万人のサッカー人口が犯罪を犯さないようになれば国も変わってくるのでないかと考えて、私たちはイガンムFCがその希望の星になれるように目指している」と加藤氏は語った。
●ナイジェリア人のレベルと現状
ナイジェリア人は欧州の国々から搾取されてきた歴史があるため互いに人を信用していない。そのため、加藤氏は、人となりを把握しているバヨ氏以外ナイジェリア人とはビジネスをするつもりはないという。バヨ氏は、日本に10年住んでいることと、日本人女性と結婚しており、日本人である加藤氏を裏切れない環境にある。加藤氏はバヨ氏とビジネスをしている限り常にベネフィットをシェアできるような仕組みを考えているとのこと。
また、「ナイジェリアには、ダイヤの原石はごろごろ転がっているが、磨く環境(グラウンド、指導者)がない。ナイジェリアのゲットーからバロンドール(世界最優秀選手)の輩出を目指し、その環境を整えたい」と語り、ラゴス州郊外に土地を購入、選手寮・人工芝のグラウンドを作り、そこでスター選手を育成を計画中であることを明かした。
グラウンドを探しに国境沿いのバダグリに(夜は30分、昼は3時間)行き、バダグリの王様に土地を安く売ってほしいとお願いしたところ快諾を得たので、ビーチ沿いの土地を購入予定(10月にサインする予定とのこと。)
●イガンムFCにおけるフォワード社の収益
イガンムFCの選手の移籍金と土地の収益を出資分でシェアしている。クラブの運営費はフォワード社の持ち出しはないとのこと。
「経済の発展で言えば、この先の10年は東南アジアですが、その次の10年はナイジェリア含むアフリカの経済の発展が見込まれるので、サッカーだけじゃないビジネスも手掛けていきたい」と語った。
■Jリーグに対する提案
日本代表がオリンピックのナイジェリア戦で敗戦後、日本サッカー協会から意見を求められた加藤氏は以下の2つの提案をしたという。
・アフリカ選抜をJリーグに参入
・アフリカ選抜U18をプリンスリーグ(ユース年代のリーグ戦)に参入
「日本はナイジェリアに圧倒的な個の力で負けていた。この個の力は海外遠征を少し経験しただけでは覚えられないと感じている」というのが加藤氏の見解だ。
そこで加藤氏が協力できることとして提案されたのが、「アフリカの選抜チームを連れてきてJリーグに参戦させる。Jリーグからでは遅すぎるなら、U-18選抜でプリンスリーグに参加させる」という内容だった。
加藤氏は「これが実現できれば、選手の絶好のアピールの場となり、イガンムFCにとっても選手をJリーグのチームに売り込むことができるし、日本のサッカー界にとってもプラスになると思います。ヨーロッパのチームへの移籍が優先されるので、トップ選手を連れてくることは出できないが、その下のクラスは連れてくることは可能です。アフリカ系の選手は早熟なので、そのクラスの選手でも日本のチームを圧倒できるでしょう」と語った。
J2、J3クラブに対しては、水面下で、ナイジェリアは若くて・安くて・よい選手がたくさんいるので移籍させて活躍したらJ1・中国に売り、収益はイガンムFCとJクラブとシェアすることを提案しているという。
「未来のナイジェリアのために頑張ります」と加藤氏は語った。
「大事にしていることは、『描く、言う、動く』。描いて発信する。メディアというのは実現性を高める予言能力があるので描いたら必ず言うようにする、そうすれば共感して応援してくれる人が現れる。そういった人が増えれば増えるほど実現できるようになる」と語り講義を締めた。
■質疑応答
セミナーの最後に質疑応答が行われた。
――ナイジェリアのリーグについて教えてください。
「1部から5部まであり、2部までがプロのクラブ。プロクラブの中には自治体やプライベートな実業家のチームもある。選手にとっては欧州などの海外へ移籍できるかどうかが大事に考えられている。リーグの収益はそれほどでもない」
――海外リーグの試合は放送されているのでしょうか? また、子どもは試合を観ることはできているのでしょうか?
「主に賭博場やパブなどで放映されています。子どももそういった場所で大人に交じって観ています」
――カンボジア、ナイジェリアでチームを持った経験から、日本サッカー界に何か言えることはありますか?
「私自身、現状、提言を言えるほどの影響力はないと感じています。5年後くらいにはそうなりたいと思っています」
――なぜ天然芝ではなく人工芝のグラウンドを作るのですか?
「国のアカデミーなど一部の組織では天然芝のグラウンドを持っていますが、ナイジェリアの国民性から天然芝のメンテナンスができないことが挙げられます」
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カンボジアンタイガーFCとイガンムFCのオーナーである加藤氏の言葉からは、サッカークラブでビジネスをしようというだけでなく、サッカーを通じてクラブがある地域、国を豊かにしたい幸せな国にしたいという情熱に溢れている。
今後の加藤氏の活躍を祈ると共に、その情熱と行動力をもって、いつの日か日本のクラブでも手腕を発揮できることを期待します。
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■講師プロフィール
加藤明拓(かとう・あきひろ)
株式会社フォワード 代表取締役
1981年生まれ。千葉県出身。大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーション入社。組織人事領域のコンサルティング業務に従事後、スポーツコンサルティング事業部の立ち上げ、ブランドマネジメント事業部長を経て、2013年株式会社フォワードを設立。
ブランドコンサルティング領域においては、自動車、電機、アパレル、化粧品、小売など幅広い業界において、国内大手企業を中心に、ブランド戦略策定~社内浸透~業務プロセス構築を支援。マーケティング領域に留まらず、ブランドを「経営」や「組織」という観点から捉えるコンサルティングを得意とする。
スポーツコンサルティング領域においては、Jリーグ、プロ野球、ラグビー、バレーボール、バスケットボールなどを中心に数十チームにおいて、選手のモチベーションマネジメントやチーム運営を支援。
現在、カンボジア(1部リーグ所属:カンボジアンタイガーFC)と、ナイジェリア(5部リーグ所属:イガンムFC)のオーナーも努め、同社のノウハウ・ナレッジをチーム運営にも活かしている。
高校時代には、千葉県立八千代高校サッカー部にてインターハイ優勝、優秀選手に選出される。
将来の夢は、「メッシ超え、バルサ超え」(メッシを超える選手を輩出する・バルサに勝てるクラブを保有する)
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【了】
深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。
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