日本人初のプロソフトテニスプレーヤー船水颯人 ソフトテニスのメジャー化へ “前人未到”の挑戦(前編)
2020年04月24日 インタビュー アスリートマネジメント/セカンドキャリア Written by Sports Japan GATHER
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2019年4月、日本人初のプロソフトテニスプレーヤーが誕生しました。その名は、船水颯人(ふねみず・はやと)さん。全日本シングルス選手権で4度の優勝、国際大会でも2016年のアジア選手権でミックスダブルス、ダブルス、国別対抗の3種目で金メダルを獲得し3冠を達成するなど、日本ソフトテニス界を牽引する若きエースです。これまでは実業団チームに入り、収入を得ながら競技を続けることが当たり前でしたが、船水さんが前例のない扉をこじ開けました。選手としてのキャリアと前人未到の挑戦に迫ります。
(出典:Sports Japan GATHER『日本人初のプロソフトテニスプレーヤー船水颯人 ソフトテニスのメジャー化へ “前人未到”の挑戦【前編】』2019年10月28日)
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■早稲田大学への進学を決めた理由は“自主性重視”と“兄の存在”
青森にある高校のソフトテニス部監督である父と元コーチの母を持ち、3つ上の兄・雄太さんもプレーヤーというソフトテニス一家で育った船水さん。とはいえ、両親から促されてソフトテニスを始めたわけではなく、遊びの中でラケットを握ったことが最初のきっかけだった。兄も同様の理由でプレーするようになったという。
幼稚園からソフトテニスを始め、小学校1年生から練習を開始。並行してサッカーと野球もやってはいたが、競技に触れている時間が長かったこともあり、4年生からソフトテニスに専念することを決めた。
小学生時代は大会で目立った成績は残せなかったが、中学進学後から徐々に才能が開花していく。2年生の全日本中学生大会で3位に輝くと、それから全国規模の大会への出場機会が増加。数々の大舞台で結果を残せるようになり、周りから一目置かれる存在になっていった。
2012年に宮城の東北高校に進学して以降は、インターハイの団体戦を1年生で優勝、3年生の時には準優勝を経験。毎年3月に行われる全日本高校選抜でも1年生(2013年)で3位、2年生(2014年)には、キャプテンとしてチームを牽引し優勝を果たした。さらに、JOC杯ではU-17で2連覇、U-20でも優勝し、高校シングルス無敗記録を作っている。
高校卒業後は早稲田大学へと進学。同大学は、インカレの男子大学対抗戦で優勝を18度(2019年8月終了時点)成し遂げており、社会人の交じったトップクラスの大会でも常に上位に君臨している“超強豪”。入学の決め手となったのは、ソフトテニスの環境の良さと、兄の存在にあった。
「高校時代の練習は、誰かに“これをやれ”と言われてやるのではなく、全て自分たちで決めていました。メニューの内容はもちろん、練習を行う時間も僕らが考えていたんです。そういう自主性が求められる環境でプレーし、結果を残すことができたので、大学でもそのスタンスは変えたくなかった。だから同じように自立したチームで、かつ強い選手が集まっている早稲田大学に行くことを決めました。
それに加えて、同大学に兄がいたというのも大きな理由の一つです。兄とは3つ年が離れているので、中学・高校ともに学校が被ることがなかったんですね。でも大学だと僕が入学した時は、兄は4年生。すでにチームをまとめる存在でもあったので、そんな兄と“一度は一緒に戦ってみたい”、そういう気持ちもありました」
■飛躍のきっかけは“兄弟対決”
しかし、ソフトテニス(軟式)はプロ化されておらず、テニスを続けながら収入を得るには実業団チームに入るしかない。一方、プロがある硬式は、錦織圭のようなトップ選手ともなれば多額の賞金を手にすることも夢ではない。それでも船水さんは、ソフトテニスにこだわりを持つ。
【大学から硬式に転向してプロを目指す選択肢はなかったのだろうか?】
「僕の場合“硬式をやるきっかけがなかった”というのもありますが、そもそも軟式と硬式って似たようなものだって考えられがちですけど、実際は全く別のスポーツです。最大の違いはボールの硬さ。軟式は硬式と比べて20グラム以上ボールが軽く、ゴム製なので打球が遅いです。だから例えば、プロ野球選手が軟式のボールを打っても潰れて全然飛ばなかったりしますよね? ソフトテニスもそれと同じで、パワーだけではなく、経験に磨かれた技を生かせるのが魅力でもあります」
ソフトテニスはボールだけではなく、器具やルール、打ち方にも差が生まれてくる。硬式は、スピードが速いボールを打ち返すためにラケットの網は強めに張られているのに対し、軟式は網を強く張る必要がない。
ネットに関しても、わずかの差ではあるが、中央部の高さに違いがある。軟式ではネットが全面平行(1.07メートル)に張ってあるが、硬式の場合、両サイドは軟式と同じ高さでも、中央部は0.914メートルと少し下がっているのだ。そのため硬式では、ネットの高さの違いを考慮し、打球の高さやスピードを変化させることが重要となってくる。他にもさまざまな違いが生じてくるため、たとえソフトテニスの経験があってとしても、硬式で活躍できるとは限らないのだ。
迷いなくソフトテニスの道を歩んでいった船水さんは、2015年5月に開催された全日本シングルス選手権で、選手としてのターニングポイントを迎える。
「決勝戦まで勝ち進み、最後の相手が兄だったんです。僕にとって兄は、それまでずっと背中を追い続けてきた大きな存在。全日本シングルス選手権という舞台も、今までとは全然違う世界だと思っていたので、すぐに優勝できるとは思っていませんでした。それでも、兄に勝って優勝することができたので『この舞台でも自分の実力は通用する』と自信を持つことができました」
この試合を皮切りに、全日本シングルス選手権では計4度(2015、2017〜19年)の優勝。2015年の世界選手権ではダブルスで銅メダル、国別対抗で金メダル。2016年アジア選手権では、ミックスダブルス、ダブルス、国別対抗の3種目で金メダルを獲得。2018年アジア競技大会国別対抗でも銀メダルに輝くなど、数々のタイトルを総なめにしていった。
こうして早稲田大学だけでなく、日本のソフトテニス界を牽引するエースへと飛躍を遂げていった船水さん。だが、大学卒業を控える中、ソフトテニス選手を続けていく上で“究極の決断”を迫られることになる。
(後編へ続く)
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[PROFILE]
船水颯人(ふねみず・はやと)
1997年1月生まれ、青森県出身。小学校1年生の時にソフトテニスを始める。早稲田大学に進学後、2016年アジア選手権で、ミックスダブルス、ダブルス、国別対抗の3種目で金メダルを獲得などさまざまな大会で結果を残す。昨年同大学を卒業しプロに転向。
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【了】
取材・文=佐藤主祥
記事提供:Sport Japan GATHER
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