音楽界はプロスポーツチームにとってライバルか、それともパートナーか?
2016年03月26日 コラム チーム/リーグ経営 Written by 新川 諒
皆さんは、プロスポーツチームにとってファンを取り合うライバルはどこだと考えるだろうか。
例えばプロ野球チームにとってのライバルは、他球団やJリーグなど他競技のプロリーグになるのだろうか。フィールド上では間違いなく他球団は優勝争いのライバルになるが、フィールド外でのファンの取り合いのライバルであるとは限らない。
休みの週末に友達や家族とどこへ行くか考える際、選択肢として出てくるのは遊園地、映画館、カラオケなどのエンターテインメント・娯楽施設が候補になるだろう。それらの全てがスポーツ観戦のライバルになるのだ。
その中でも大きなライバルの一つが、音楽系イベントだ。
ⒸREPUCOM
日本だけに限らず世界中で、音楽のビジネスはスポーツ観戦の集客を目指すプロチームにとって脅威の存在となっている。レピュコム社によると、音楽系イベントに一番お金を費やしている5カ国のフランス、ドイツ、UK、アメリカ、日本では、14歳から34歳までの男女が年間172億ユーロ(約2兆1700億円)を使っているという数字も出ている。
スポーツ観戦には席や会場、プレミア感のある試合か否かで値段もさまざまだが、日本では14歳から34歳の男女が1回の音楽系のイベントに参加するのに、平均で66.6ユーロ(約8315円)を使っている。その音楽系のイベントに参加するためにかかる移動費や宿泊費は、平均で60ユーロ(約7490円)だ。さらには音楽系のイベントで飲食に使う平均は27.6ユーロ(約3445円)と、1度の音楽系イベントにかける平均的な値段は、スポーツ観戦に行くのとさほど差はないといえるだろう。
世界の巨大なエンターテインメント施設ではさまざまなイベントを開催しており、年間50万人から200万人を呼び込んでいる。そのうち音楽系のイベントが開催されるのは年50回から150回と幅広いが、 今はスポーツのスタジアムやアリーナを短時間で音楽系イベントの会場へとその空間を変貌させる技術がある。
屋内アリーナに加えて、スポーツ専用の屋外スタジアムでも定期的にコンサートを開催している。ロンドンのウェンブリー・スタジアムやエミレーツ・スタジアム(イングランド・プレミアリーグのアーセナル本拠地)、そして米国では2016年スーパーボウルの開催地となったサンフランシスコのリーバイス・スタジアム(NFLサンフランシスコ49ers本拠地)がその代表格だといえるだろう。
また、広々とした公園を誇るロンドンのような大都市では、大型スポンサーと提携することで巨大な音楽系イベントの開催を実現している。例えば、ロンドン五輪のために建設されたクイーン・エリザベス・オリンピック・パークも、グローバルなイベント運営会社であるライブネーション社がプロモーターとなり、音楽系イベントを開催しているのだ。
2020年東京五輪を控える日本にとって、五輪後のスタジアム活用法には参考にできる要素もあると感じる。プロスポーツチームにとって音楽系イベントは同じエンターテインメントの世界ではライバルかもしれないが、同じ空間を最新の技術により活用していくことで貴重なパートナーとなり、共存していける可能性がある。
米国ではスーパーボウルやオールスターのイベントで音楽やライブパフォーマンスは必要不可欠だ。今後は日本のスポーツ界でも音楽界と力を合わせ、融合していくことでより多くの層をファンとして増やしていけるのではないだろうか。
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<レピュコムとは?>
スポーツマーケティングの分野における情報収集や分析、戦略化を実現するスポーツ専門のコンサルティング企業。
マーケティングとスポンサーシップにおける価値を創造するという顧客のニーズに応えることを目的に、メディアのモニターやマーケットリサーチ、さらにはファンの活動のリサーチを実施している。
2004年の設立以来、今や世界20カ国以上に拠点を持ち、1000を超えるトップブランド、代理店、ライツホルダー、メディアにデータ提供するなど、スポーツ業界の分析領域におけるグローバルリーダーというポジションを確立している。
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【了】
新川諒●文 text by Ryo Shinkawa
幼少時代を米国西海岸で10年過ごし、日本の中学・高校を経て、大学から単身で渡米。オハイオ州クリーブランド付近にあるBaldwin-Wallace Universityでスポーツマネージメントを専攻。大学在学中からメジャーリーグ球団でのインターンを経験し、その後日本人選手通訳も担当。4球団で合計7年間、メジャーリーグの世界に身を置く。2015年からは拠点を日本に移し、主に海外スポーツ中継に携わるフリーランスの翻訳家、さらにはフリーライターとしても活動中。
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