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元アスリートが語るスポーツの仕事「やる」から「つくる」へーVol.19ー元レスリング選手 半田守さん(後編)

2020年02月03日 インタビュー Written by Sports Japan GATHER

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 SJNでは、アスリートとスポーツを愛する人でつくる新しいコミュニティーメディア「Sports Japan GATHER(ギャザー)」のご協力を得て、記事提供を頂いております。

 特集『元アスリートが語るスポーツの仕事 「やる」から「つくる」へ』では、元アスリートの方々にセカンドキャリアについて話を聞いています。

 今回は、元レスリング選手で、現在はバイオマスエネルギー事業に携わりながら、自らレスリングウェア事業を立ち上げた半田守さんの登場です。

前編はこちら⇒https://sjn.link/news/detail/type/report/id/325

(出典:Sports Japan GATHER『元アスリートが語るスポーツの仕事「やる」から「つくる」へーVol.19ー元レスリング選手 半田守さん(後編)』2019年3月22日)

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「自分で考える選手になってほしい」
半田守(はんだ・まもる)さん/28歳
レスリング選手→株式会社sonraku、レスリングウェア事業

■持続可能な社会に導く“バイオマス事業”への挑戦
 国士舘大学の大学院修了をもって、レスリング人生からも身を引くことを決意した半田守さん。その後は、他社ブランドの製品を製造するOEMの企業に入社し、営業として働き始めた。そんな中、入社3年目の2017年12月、会社を退職して新たなステージへ進んだ。

「もともと社長には『将来は独立したい』と話していたんです。会社からすれば失礼な社員ですよね(笑)。でも社長は、レスリングを頑張っていた僕のことを評価してくれていて、逆に将来のことを応援してくれました。本当に感謝しかありません」

 次に選んだ職場は、岡山県の西粟倉村。近年では、ローカルベンチャーを起業する若者が全国から集う“地方創生の先進地”として知られている。この地域に移った理由を、こう説明する。

「知り合いの元レスリング選手で、現在はソニー生命保険で働いている方から岐阜の地域おこし協力隊の方を紹介してもらいました。その方から地域に関するお話を聞いて『あっ、田舎っていろんな可能性を秘めているんだな』と思ったんです。そのことをきっかけに、地域ビジネスに関する本をひたすら読むようになりました。そして、ある本から“バイオマスエネルギー”というキーワードが出てきたんです」

 バイオマスエネルギーとは、化石燃料の代わりに間伐材や製材クズを利用することにより、エネルギーの持続的循環をつくることができるもの。それを知って『面白いな!』と思った半田さんは、さらに調べていき、井筒耕平という人物にたどり着いた。

「井筒さんは、再生可能エネルギーの政策的アプローチや、木質バイオマスエネルギーに関する実践・コンサルティングなどをされている環境学の博士です。僕はこの方にお話を聞いてみようと、SNSでアプローチしてみることにしました。すると、井筒さんから“今ちょっと人が足りていないから来てくれないか?”と連絡があり、バイオマス事業をされている西粟倉村に行くこに決めたんです」

 実際に訪れた半田さんは、その場で驚きの光景を目にすることになる。

「この村では、地域から出た間伐材を燃やして薪(まき)にした燃料を、村内にある3つの温泉施設に石油の代わりに投入していました。そうすることによって、村内における木質エネルギーの地産地消を図っていました。『うわ〜めちゃくちゃコンパクトに回している』って驚きました(笑)。村で持続可能な社会を生み出していく。井筒さんはそのロールモデルをつくろうとしていたんです」

 こうして2018年1月、井筒氏が代表を務める、バイオマス事業やコンサルティング事業を行う『sonraku』の活動に参加。レスリングとも、営業ともまた違う、まったく新しい世界へ飛び込んだ。

■営業職で身につけた“交渉力”を生かす術

 西粟倉村は2014年、地域おこし協力隊の制度を『起業型』『企業研修型』『行政連携型』という3つのタイプに分類し、ミッションを明確化している。起業型は村で起業する存在になること。企業研修型は既存企業によって協力隊員を研修すること。そして行政連携型は行政が直営で企画していることに従事することである。

 半田さんはsonrakuに属しながら企業研修型として“バイオマスに関する知識を働きながら身につける”活動を始めた。任期は3年間、その中で西粟倉村の地域づくりに貢献していく。具体的にはどのような仕事をしているのだろうか。

「事業内容としては、燃料にするための薪を割る作業や工場のマネジャーをやっています。工員の皆さんのシフトを決めたり、事業の売り上げを計算したり、木材の仕入れなどを担当しています」

 その中で、sonrakuには大きな課題があったという。

「僕が入社する前の2017年度は、バイオマス事業単体でみると収支的に厳しい状況だったんです。その原因を調べたところ、人件費と、原木(製材される前の伐採した状態の木材)代にすごくお金がかかっていて。特に原木代は支出の4割を占めていました。これはどうにかしないといけないと、2018年で黒字にすることを目標に掲げたんです」

 しかし、原木代は仕入れ先に価格交渉をするも、相場より安く提供してもらうことはかなわなかった。売り上げを向上するにも、すぐに供給施設を増やすことはできない。そこで半田さんは、視野を広げてある行動に出る。

「エネルギーの単価を上げる交渉をしたんです。例えば、灯油が1エネルギー120円、薪は100円だとします。だったら『薪を115円まで上げてくれませんか』と。まだ灯油より安いですし、断然メリットがあるので。僕はこの業界ではド素人で、自分だけではにっちもさっちもいかず、役場のエネルギー担当の方や井筒さんに相当尽力いただき、ついに交渉成立。そのようにお客さまのご協力もあり、2018年度はなんとか黒字にすることができたんです」

 営業職で培った“数字を見る習慣”により、1年間で同事業の収益改善に成功。あとはいかに作業効率を上げ“黒字街道”に乗せていくか。バイオマス事業での挑戦は、まだまだ続いていく。

■レスリングウェア事業を通じて届けたい想い

 sonrakuで活躍を続けている半田さんだが、実は、西粟倉村に移り住むにあたってある問題に直面していた。地域おこし協力隊の制度として、隊員の給料と活動費は国から交付金の上積みとして支給される。ただ、雇用契約を結んでいるわけではなく、あくまで個人事業主として扱われるため、税金や福利厚生費は自己負担しなければならない。

「西粟倉村に来る前に自分の生活費を計算したところ、給料から家賃や税金等を引いたら、1カ月食べていけるほどのお金は残っていませんでした。このままいったら『俺、死ぬな』って(笑)」

なにか対応策はないかと、さまざまな手段を考えた。そして、元の会社時代に密かに取り組んでいた、あることを思い出す。

「実は、前職でオリジナルのレスリングウェアを作っていたんですね。というのも、前職にスポーツ事業部があって、水着を作っていました。初めてその水着を見た時『レスリングウェアと似ている』と感じ、それから仕事の合間を縫ってウェア制作を始めました。

 初めは会社の商品にしようと始めた作業。でも、3年で退職することになり、西粟倉村での生活が思った以上に厳しいことを知った時『レスリングウェア制作を自分の事業にして副収入にできないか?』と考えました。社長に“この事業を持っていかせてください”とお願いしたら、快く了承してくださいました。社長含め、前職の会社の方々には感謝してもしきれません」

 こうしてバイオマス事業と同時に、2018年1月からレスリングウェア事業をスタート。“今をもっと輝かせる”をコンセプトとしたブランド『MAMO』を立ち上げ、主にHPからオリジナルの「レスリングシングレット」を販売。

 母校である京都・網野高校や専修大学の協力を得て、両校から商品を購入してもらうことにより、すぐに実績をつくることに成功。それにより、一定の収入を得ることができた。だが、自身がレスリング経験者だったからこそ、納得のいくシングレットを生み出すまでには、多大な時間を費やしたという。

「高いクオリティにするまでに、スタートから1年かかりました。ただ、設立当初の商品も悪くはなかったんです。子どもたちに向けて安く販売すれば、ある程度のビジネスにはなったかもしれません。ですが、ずっと自分の中にモヤモヤした気持ちがあった。だったら、自分が納得するまで改良しようと決めたんです」

 課題は、レスリングシングレット特有の“生地の性質”にあった。初めは縦伸びが弱く、全階級の選手に対応した商品ができなかったという。

「僕ぐらいのサイズは分かっても、重量級のサイズは確認できなくて、選手から“ウェアがキツイ”と言われました。だから縦伸びが強くて透けにくく、撥水の良い生地。加えてデザインの印刷がしっかり映る生地を探していきました。制作会社の方に何度もお願いして、理想の生地を見つけてきていただけたんです。ようやく納得のいく商品を届けられるようになりました」

 そして、自身のレスリング人生からこの商品を通して伝えたい思いがある。

「僕は現役時代、指導者の顔色をうかがいながら、自分で考えずにプレーしていた選手でした。監督が厳しいのは当たり前ですし、そうあるべきだと思います。ですが結局、戦うのは自分です。だから自分で考えて、自発的に行動できるようにならなければいけない。プロの選手はもちろんですが、特に学生にはこのことを伝えたいんです」

 MAMOの商品はカプセルに入っており、コンパクトで持ち運びが便利になっている。半田さんは、その中に選手へ向けたメッセージが記してある1枚の紙を入れている。

 “自らの意思で戦うアスリートになってほしい”

 最後に、現役アスリートがセカンドキャリアを考える上で必要なことを聞いてみた。

「現役のころは、基本的にはスポーツに集中した方がいいと思います。しっかり自分で考え、工夫して勝つことを目指してほしいですね。その中で、必要であれば“スポーツで勝つための勉強”をしてください。勝つための方法を自分で探り、導き出すことは重要。

 そうすれば、引退して仕事をする際、結果を出すためには何をどれぐらいすればいいのか、ということがイメージしやすくなります。“やろうと思えばできる”という考え方にもなるので、現役時代に一生懸命スポーツと向き合うことは、必ずその後の人生にプラスになります」

 セカンドキャリアとして就いた仕事が、たとえ競技とまったく関連がなくても、アスリートのマインドを生かしさまざまな分野で活躍できることを半田さんのキャリアで証明している。

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[PROFILE]
半田守(はんだ・まもる)
1990年生まれ、京都府出身。2010年専修大学に入学後、2011年全日本大学選手権や2013年デーブ・シュルツ記念国際大会で優勝。卒業後は、国士舘大学大学院に進学、現役を続けながら学業を両立していたが、就職を機にレスリングを引退。2018年1月、バイオマス事業やコンサルティング事業を行うsonrakuの活動に参加し、岡山県西粟倉村に移住。加えて、自身のレスリングウェア事業「MAMO」を開始。
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(※データは2019年3月22日時点)

【了】

取材・文=佐藤主祥
取材協力=スポーツ庁委託事業「スポーツキャリアサポート戦略における{アスリートと企業等とのマッチング支援}」
記事提供:Sport Japan GATHER

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