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【セミナーレポート】サッカー視点で甲子園を考察してみる ~22歳までのスポーツの在り方に関する討論~

2019年01月23日 インタビュー Written by 深谷 友紀

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 大阪桐蔭の春夏連覇で幕を閉じた第100回夏の甲子園。今大会も金足農業の躍進など話題に事欠かない大会となった。タイブレークの導入、開会式でのペットボトルの携帯、水分補給タイムなど選手の健康への配慮がされ始めた大会ともなった。一方で、毎年議論が繰り返されており、いまだに結論の出ていない、「投げ過ぎ問題」は今大会でも話題となった。

 そんな中、まさに大会開催期間中に、一冊の衝撃的なタイトルの本が出版された。『甲子園という病』(新潮新書)。甲子園を頂点とした日本野球の育成システムの問題点をあらゆる角度から検証する内容となっている。

 今回、この本の著者、氏原氏をお迎えして開催したセミナー『サッカー視点で甲子園を考察してみる~22歳までのスポーツの在り方に関する討論~』(主催:株式会社RIGHT STUFF、会場:株式会社フォトクリエイト1階セミナールーム)で、問題点の整理をするとともに、サッカー界から見た甲子園がどのように映っているのかを世界中の育成に詳しいサッカージャーナリストの小澤一郎氏も交えて議論した。

 野球とサッカーで共通している問題点はあるのか? 野球とサッカーで相互に学べる事はあるのか? 世界と日本はどう違うのか? そして何より今後の日本のスポーツ界を発展させていくためにはどのような改革を行ったらよいのか? サッカー目線も加えて『甲子園の病』に切り込んだ。本記事では、その内容をレポートする。

 今回の討論は、決して甲子園を否定するものではなく、どうしたら良い未来につなげられるか?を議論するために行われたものである。

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第1部 日本サッカーの育成の問題点:小澤一郎氏
 第1部では、小澤氏が日本サッカーの育成問題について語った。

 小澤氏自身は、現状では日本の育成の問題点として、「サッカーの価値が正しく伝わっていない」と感じているという。つまり日本と海外ではサッカーの定義が異なっているとのことだ。

「サッカーがどういうスポーツなのか日本の中で定義されていない。例えば、サッカーが上手な子の定義が、足が速いなどの身体能力が優れている子やテクニックがある子が評価されやすい。しかしサッカーの定義がされていない中では、スタートの時点でボタンを掛け違えていると思う」と小澤氏は語った。

 “サッカーとはどういうスポーツか?”、その定義について小澤氏は、FCバルセロナのフィジカル部門責任者フランセスク・セイルーロ氏の「サッカーとは、社会的活動を伴うスポーツである」という言葉を紹介した。

 その中で与えられる役割や仕事は、関わる全てのモノ(例えば時間やスペース、一方のチームが目的を達成するために相手チームを攻略しようとする構図など)が相互作用で影響を及ぼし、不確定要素の事柄が含まれているという特徴を持っている。そして、それはルールに則った中で行われる。

 小澤氏は、この定義の中で特に“相互作用”がポイントと捉えている。サッカーは、自分と味方・相手によって自分のパフォーマンスが変わってくる。例を挙げるとリオネル・メッシはFCバルセロナでプレーするのとアルゼンチン代表でプレーするのとでは全くパフォーマンスが違うので異なる選手のように見える。日本ではこうした“相互作用”の話はあまりされていないと感じているという。

 小澤氏は次にサッカーにおける4つの局面とサイクルについて、「①攻撃⇒②攻撃から守備への切り替え⇒③守備⇒④守備から攻撃への切り替え」というサイクルがあると説明した。また、小澤氏は「こういう定義を小学生年代の時から提示した方が良い。頭の中でサッカーはどういうスポーツかというのを理解した上でプレーした方がサッカー選手として成長できる余地がある」と語った。

 どういうサッカーをするのか?という話をする際に、最近では「プレーモデル」の重要性が説かれている。プレーモデルとは、アスレティック・ビルバオ育成コーチであるランデル・エルナンデス氏によると、「チームのアイデンティティ、プレースタイルとも言い換えることができる。なぜプレーモデルが必要かというと、プレーモデルが自分たちの帰るべき原点、基準となり、またどこに向かっていけばよいのかを示してくれる。そのベースがあるからこそ、目的を達成するための新しいアイデアが生まれてくる」とされている。

 FCバルセロナであれば、①攻撃時にはボール保持者に近い距離に選手がいてショートパスを駆使して攻め、ボールを奪われたら(②攻撃から守備への切り替え)、近い選手がすぐ奪い返しに行く。違うチームの場合は、ボールを奪われたら自陣に撤退して③守備を行うなど、4局面において「どういうサッカーをするのか?、その指針がないと4つの局面でチームとしてやるべきことが決まらない。サッカーには正解がない。自分たちのプレーは、プレーモデルの各局面においてどうするかによって変わる。日本はスタートの時点でそのような話を全くしないので逆にプレーするのが難しくなっている」と小澤氏は語った。

 サッカーにおけるプレーのプロセスとは、“認知(認識)”、“分析 ”、“決断 ”という目に見えない心の中で行われている3つのプロセスと目に見える“実行”という1つのプロセスの計4つのプロセスでサッカーのプレーは行われている。

 基本的に選手は、まずボールが来る前に“認知(認識)”をし、ボールが来る前にどういう状況か“分析”し、ボールが来る前にどういうプレーをするか“決断”し、ボールが来て“実行”する。

「日本の育成はボールをうまく扱えるかどうかという“実行”ばかりに目がいっている。プレーをよくするためにはこの4つのプロセスを改善しないと選手としてのパフォーマンスは上がらない」と小澤氏は語った。

 2014年、NHKスペシャル「ミラクルボディー」で放映された、サッカー選手のプレー中の脳の働きについての特集によると、日本のトッププレーヤーは、脳の前頭前野を活動させてプレーしている。つまり思考してプレーしているのに対して、海外のトッププレーヤーはプレー中に脳を活発に活動させていない。つまり直感でプレーしていることが分かった。彼らは、育成年代から膨大に積み重ねた経験(戦術メモリー、パターン)から直感に従って適切なプレーを選択しているという。だから普通であれば見えていないであろうパスコースにパスが出せる。このようなプレーをしているため、脳のエネルギーの消耗を抑えられているという研究結果があげられた。

 また、小澤氏が取材した東京大学大学院の深代千之教授の研究によれば、「漢字や九九を覚える勉強のみならず、箸の使い方やボールの投げ方を覚えることも脳の仕組み、つまり勉強も運動も脳の中枢神経の中を信号が通る道筋=パターンをつくるという意味では基本的に同じこと。脳と身体を分けて考えない、脳体一致が大切」とのこと。

 スポーツの脳の神経回路をつなげる(ビジネスでも受験でも同じ)

「サッカーは、スポーツは、脳を使って神経回路をつなげるので、子どもの発育にとって非常に有効である。日本の育成ではまだまだこの部分が欠けているなと感じている」と小澤氏は語った。

第2部「甲子園という病」で伝えたかったこと:氏原英明氏
 第2部では、氏原氏が書籍「甲子園という病」の書籍化に至るまでの経緯について語った。

 氏原氏は2003年に奈良の新聞社で甲子園を取材したことがきっかけで高校野球の世界にのめりこんでいった。その後毎大会取材していった中で、甲子園が大好きという気持ちに変化が起きていった。それは、1年生の時には記事にされるほど良い選手と評価された子が、1年後には話題にも上がらないことが多いことから、毎年逸材が壊れているのではないか?という疑問を生じ、甲子園そのものにも疑問を持つようになった。

 2018年の夏の甲子園大会で投球過多の問題が上がった選手が、勝ち上がっていくにつれ酷使が美談に変わっていった。

 このように観客、世論等々が高校スポーツを批判しにくい環境をつくり上げていることに氏原氏は危機感を抱き、「甲子園という病」の書籍化に至ったという。

「勝つこと以外に価値はないという勝利至上主義ついて世の中が考えないといけない。本を出して批評するなら衝突することは覚悟の上で、なんとか変えたいと思っている」と氏原氏は語った。

第3部 日本の22歳までのスポーツの在り方に関する討論
 第3部では、小澤氏、氏原氏の両氏が日本の育成年代のスポーツの在り方についていくつかのキーワードをあげて語るとともに、参加者も交えた討論が行われた。(進行役:株式会社RIGHT STUFF河島徳基氏)

キーワード1:今か? 将来か? 勝利至上主義とのバランスについて
小澤氏 日本のサッカー界では、U-15、U-18などのカテゴリーでは階層化されたリーグ戦が整備され始めているが、U-12では未整備な状態にあります。個人的には少なくともU-12の全国大会をなくしても良いと考えている。海外では育成年代では全国大会はなく基本は地域でのリーグ戦です。育成年代でトーナメント方式の全国大会がメインストリームの国は部活動が主流の日本と韓国くらいです。海外、例えばスペインでは、どのプロクラブでも育成年代の指導者は「試合に勝つだけ」では評価されません。逆に、チームが負ける、下のカテゴリーに降格したとしても、上のチームに選手を輩出できれば評価されます。

氏原氏 野球の場合、アメリカでは、チームとしての全国大会はありません。今年からショーケースとして、ドラフト前に選抜された選手が集まって大会が行われ、その中からU-18チームのメンバーが選出されましたが、チームとしてではなく個人として参加された大会でした。日本は全国大会開催が多すぎです。何のためにやるのかが失われているような気がします。

キーワード2:選手のけがについて
氏原氏 野球の投手の場合、アメリカではどれだけ投げたら故障をしてしまうのかデータを集めとことん研究しルール化されていますが、日本ではそれがありません。日本ではプロとアマの連携がないため、故障によってプロでうまくいかなかった原因が、高校時代の酷使によるものであるのかという研究がなされていません。

小澤氏 サッカーでは、スペインの場合、サッカー協会に登録された選手がけがをした場合、保険により無料で治療が受けられ、けがの履歴のデータベース化がされていますが、日本ではまだそこまで一元管理されたシステムがありません。また、育成年代でもシーズン前に最低限のメディカルチェックが行われています。

氏原氏 甲子園でもメディカルチェックが行われていますが、それは問診程度のようなもので形骸化しています。アメリカでは、トミー・ジョン手術は8年で再発の恐れがあるといわれています。

キーワード3:メディアについて
小澤氏 最近では、メディア側の自重と選手側の情報感度が良くなり、メディアが選手をつぶすという現象、傾向は減少しているように思います。

氏原氏 甲子園の情報は、知らない人でも知ってしまうほどちまたに溢れています。地域の新聞やフリーライターが売り込むため、中学3年生になる前から騒がれ、つぶれてしまうケースもあります。甲子園大会は、2003年から2005年くらいまではあまり過熱していませんでしたが、早稲田実業の斎藤佑樹(現・北海道日本ハムファイターズ)と駒大苫小牧の田中将大(現・ニューヨーク・ヤンキース)の投げ合いから、雑誌などで個人にスポットライトが浴びる個人重視に変わっていきました。

質疑応答
Q.サッカーではJリーグのクラブユースと高校の部活動と選択肢がありますが、なぜ日本のプロ野球はアカデミーを持たないのでしょうか?
A.単純に高野連に気を使っている状況だと思います。甲子園で活躍すればプロに行けるという信仰があります。ただ、2018年に16歳の選手(結城海斗)がメジャーリーグ(カンザスシティ・ロイヤルズ)と契約したケースも出てきたので流れが変わるかもしれません。また、実際Jリーグのアカデミーの選手でもプロになるのは簡単じゃありませんので。プロ野球でもたくさんの逸材がつぶされている現状の指導レベルでどこまで育てられるのかという疑問があります。(氏原氏)

Q.サッカーの高校とクラブの共存についての現状をどうお考えでしょうか?
A.高校年代では、職業の安定性が高い先生(教育者)がサッカーのことを勉強し始めて指導レベルは上がっています。強豪校で活躍すれば複数オファーをもらえる事例が出てきていますし、選手のリテラシーも上がってきているので高校、クラブの選択の幅が広がっています。(小澤氏)

Q.サッカーの育成年代で、リーグ戦が行われる前と後ではどういう変化があったのでしょうか?
A.上のレベルの層では試合数にさほど変化はありませんが、下の層ではレギュラーになれなかった控え選手がB,C,Dチームでリーグ戦が戦えてサッカーを楽しめる環境になっています。そのため活引退後も生涯スポーツとしてサッカーに関われる可能性が高まっている、という変化は少しずつ起きています。サッカーの質としても上がっていると感じます。(小澤氏)

Q.アメリカでは野球の高校年代の現状はどうなっているのでしょうか?
A.アメリカの高校年代は、トライアウトで選別されます。不合格の場合、親が試合に出場できるチームを探します。プレーする場所を選手が探せる環境になっています。(河島氏)

Q.U-8、U-10の年代において海外のアプローチはどうなっているのでしょうか?
A.スペインはサッカーだけではない別のスポーツも勧めており、詰め込みすぎず週2・3回の練習に週1回の試合を行っています。低年齢の育成を整備していく上では加熱しすぎないように保護者への十分な説明が必要だと感じます。若く情熱溢れるコーチはもちろん、育成年代では人生経験のあるベテランコーチがもっと必要ではないかと考えます。(小澤氏)

Q.高校野球においてメディアと高野連はどういう関係なのでしょうか?
A.高校野球の中継のもともとの始まりは口約束からで、昔からの結び付きで成り立っていて、高野連はNHKから放映権料をもらっていません。私としては参加校の補助金の問題もありますので放映権料をもらうべきではないかと考えています。(氏原氏)

Q.保護者の過熱について、野球界、サッカー界はどんな状況なのでしょうか?
A.高校野球の場合、どこの学校へ行くかという争いが過熱しています。(氏原氏)
サッカーの場合、保護者同士でセレクションについての話題が過熱しています。海外では年間を通したスカウティングを行っています。日本でもセレクションの文化は早くなくすべきと考えています。(小澤氏)

Q.リーグ戦をやることの功罪について教えてください。
A.今は移行期なのでJ2,J3で生活できる最低年棒を確保する必要がありますが、育成年代ではリーグ戦のデメリットはないと考えます。むしろもっと整備したほうが良いと思っています。海外では、14・15歳でトップリーグにいられないならプロを目指すのではなく、違う道を探します。なぜなら、7,8歳から毎年ふるいにかけられ、選手自身が一番自分の実力と将来をわかっているからです。日本でいう「遅咲き」という言葉、選手はほとんどありません。(小澤氏)

Q.文武両道についてどのように考えられていますか?
A.サッカーしかしていない指導者では良い指導ができません。サッカーとサッカー以外でバランスの良い時間の使い方が必要だと思っています。だからこそ、海外では育成年代の指導者は本業を持っているパートタイム契約が多くなっています。(小澤氏)
 高校野球の場合でも指導者が野球しか知らないので、なかなか文武両道という発想にいきつけない現状です。(氏原氏)

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 最後に氏原氏は、「理想としては、甲子園は選抜大会を廃止して、秋から春までリーグ戦の実施を! そうすれば少し流れが変わってくるのではないかと思っています」と語り、セミナーの最後を締めた。

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<講師プロフィール>
小澤一郎(おざわ・いちろう)
1977年生まれ、京都府出身。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、欧州サッカーの試合解説を行っている。主な著書に『サッカーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)があり、これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属

氏原英明(うじはら・ひであき)
1977年生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。スポーツジャーナリスト。奈良新聞記者を経て独立。プロからアマチュアまで、野球界を幅広く取材し続けている。共著に『指導力。高校野球で脱・勝利至上主義を目指した11人の教師』
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<了>

深谷 友紀●文 text by Tomonori Fukatani
1970年生まれ。大学卒業後プラスチック成形メーカーに就職し、2010年よりフリーランスのWebデザイナーに転身、2011年からスポーツライターとしても活動を開始。主にサッカーなど地域スポーツクラブHP製作やサイト更新管理、スポーツ系のWebメディアの運営支援、記事寄稿などを行うなど、自身のスポーツ体験含め、「スポーツを語れるWebデザイナー」として活動中。 







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