スポーツ経験ゼロ。琉球アスティーダ社長・早川周作が卓球界に起こす変革
2018年11月06日 インタビュー チーム/リーグ経営 Written by AZrena
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卓球のプロリーグ「Tリーグ」が、2018年10月24日(水)に両国国技館で開幕しました。各地域を“ホーム”として男女ごとに4チームをつくって始まるこの新たなプロリーグには、世界中の強豪選手も参戦することが決定しています。
その参戦チームの一つである、沖縄を本拠地とする琉球アスティーダの社長を務めることとなった早川周作氏は、スポーツ経験を持たず、学生時代からビジネスに尽力してきました。スポーツ業界にとって異色ともいえる早川氏は、なぜプロスポーツクラブの社長に就任したのでしょうか。
就任の背景にある学生時代の経験と、沖縄という土地柄を生かしたスポーツビジネスへの挑戦に迫りました。
(出典:AZrena『スポーツ経験ゼロ。琉球アスティーダ社長・早川周作が卓球界に起こす変革』2018年10月26日)
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■Jリーグの社長になる可能性もあった。
――琉球アスティーダの社長に就任するにあたって、日本の卓球界にどのような印象を抱いていましたか?
「もともと私はコンサルティング業務を担っていて、ベンチャー企業の支援を行ってきました。その後、沖縄へと移住しました。
さまざまな活動をしていたのですが、その一つに琉球大学の非常勤講師もありました。そこでたまたま松下浩二さんという卓球界のレジェンドとお会いする機会があったのですが、松下さんは『10代半ばでメダルを獲得できる可能性があり、貧富の格差が拡大する中でも、お金をかけずにスターになれるスポーツは卓球以外にありますか?』という話をしていたんです。
私は大学3年で会社を創業して、25歳の時にその会社を離れ、それから2年半くらいは元総理大臣のもとで勉強をしていて、衆議院の総選挙に出馬しています。なぜ出馬したかといえば、強い地域、強い力に光を当てるのではなく、弱い地域、弱い力に光を当てることが社会において重要だと考えていたからです。
スポーツでいえば、わずかな面積や費用でチャレンジできる卓球は、光が当たるべきだと感じました」
――卓球は日本人が世界で結果を残しているという意味でも、光が当たるべきだと感じたのでしょうか?
「中国があれだけお金をかけて選手を育てているにもかかわらず、日本の選手は世界ランクの上位に数多くランクインしています。中国やドイツにはプロリーグがありますが、日本はプロリーグがない中で上位にいて、東京五輪でもメダルラッシュが期待されているんです。
また、沖縄は他のアジア諸国にも近い地域です。私たちが獲得した荘智淵選手は、台湾代表として現地で高い人気を誇っています。台湾と沖縄は1時間くらいで行ける距離ですし、上海や香港にも非常に近いです。
そういった意味で、沖縄はアジアの有能な選手を獲得しやすい環境にあります。きれいな海を見ながら、ゆったりとした環境で卓球を楽しむこともできます。
地方の活性化や、アジアとのパイプづくりもできますし、スポーツにおいて光が当たっていない沖縄にチャンスを与えることもできる。そう考えた時に、すごくやりがいがあると感じて引き受けることになりました」
――早川さんはもともとスポーツの経験はお持ちだったのでしょうか?
「正直にいうと、スポーツには全く関心がありませんでした。ただ、今まで培ってきた自分のノウハウを少しでもスポーツに役立てられないか、とは考えていました。
実はJリーグの社長になるという話も随分前に来ていて、その時はあまり前向きに考えられませんでしたね。それでも、40歳を過ぎて、周りの子どもたちが成長する姿を見てきた中で、スポーツは非常に地域社会と密接で、地方を活性化しますし、海外とのコミュニケーションを図っていくツールとしてもすごく有能だと感じていました。
そのタイミングで先述したように松下さんに出会うことができて、今に至っています。卓球界の人間だけでなく、元ハンドボール日本代表キャプテンの東俊介さんや、元競輪選手のメダリスト長塚智広さん。そして3500億円規模の『さわかみファンド』を作り上げた仲木威雄さんなど、さまざまな業界の方を役員に据えています。
スポーツビジネスは儲からないというイメージを払拭する意味では、他の競技の考え方や、企業の仕組みなども取り入れた上で、スポーツの価値を上げていかなければなりません」
■苦悩の末の大学進学から企業、そして沖縄へ
――学生時代はどのような生活を送っていたのでしょうか?
「中学まで地元の秋田で過ごしていて、地元の高校に進学を希望していましたが、どの高校にも受かることができませんでした。その後、やはり高校に行きたいという思いが強く、高校浪人をして夏から猛勉強を始めました。
結果的には偏差値が30から70ぐらいまでに上がって、当時通っていた予備校の先生に、千葉の志学館高校という進学校を紹介していただき、秋田から関東に出てきました。
大学では医学部を目指していました。しかし大学受験直前で『父親が会社を潰していなくなった』という報告を受けました。秋田に戻ってみたら、家のガラスが割れたり、冷蔵庫に差し押さえの紙が貼られたりしていて、進学どころではない状況でした。
弁護士に相談に行きましたが、その時になぜ社会基盤は、強い地域や強い力にだけ働いて、弱い地域や弱い力には働かないんだろうと感じたんですよね。セーフティネットといいながらも、光の当て方が違うのではないかと」
――かなり壮絶ですね。その後、どのように大学に進学したのでしょうか。
「私は、父親の会社が潰れた時に弁護士に助けてもらって、本当に世の中で困った人を助けられるのは弁護士だと感じました。それをきっかけに、弁護士を目指すことを決めました。
その後は大学進学のために上京して、新聞配達のアルバイトで資金を貯めて、明治大学の夜間の法学部に入学しました。理由は、一番学費が安く法律の勉強ができるからです。
大学に通いながら法律事務所に勤務をしていて、その事務所の弁護士の中に、元検察で参議院議員も兼務している佐藤道夫さんという方がいました。佐藤先生は他界されましたが、オウム真理教事件の時にずっとテレビに出ていて、検事であるにもかかわらず、NHKでドラマ化もされていました。
その姿を見て、法律家を目指しながら、政治家にもなりたいと考えました。大学1年生で議員会館に足を運びました」
――大学在学中に会社を立ち上げたと聞きましたが、もともと起業に興味があったのでしょうか?
「勤務していた法律事務所の投資家から『サラリーマンになるよりも、自分の手で会社を設立してみないか』という話があり、5千万円の出資を頂き会社を設立するに至りました。
3年くらいでその会社は売却して、金銭的な余裕もできたので、その後は2年半勉強をして、28歳で衆議院議員にチャレンジしました」
――そこから沖縄に移住することになった経緯を教えてください。
「東日本大震災の翌々日に、さわかみファンドの澤上さんと一緒に沖縄でセミナーをする機会がありました。地震による被害が心配だったので家族も連れて行って、セミナー後も家族で沖縄に40日間滞在していました。
その時に最初の1週間は楽しかったものの、だんだんとやることがなくて飽きてしまって。知人に会ったら『良いマンションがある』と言われてマンションを買ってみたり、事業会社を買ってみたりしていたのですが、それから沖縄での生活が楽しくなって、家族にも許可を得て沖縄に移住することを決めました」
■沖縄という土地柄を生かし、アジアのマーケットにも進出へ
――琉球アスティーダの社長として、現在はどのようなことに取り組んでいますか?
「社長として今はスポンサー集めなどを行っていますが、スポーツはビジネスとして広げるのが難しい面もあります。普通の事業に比べれば、収益を上げることは容易ではないです。
Tリーグには台湾や韓国の選手も在籍しますが、沖縄でいえばインバウンドの興行収入も見込まれます。海外の有名選手が出場することによって、ツアーも組まれるはずなので、インバウンドやグッズ収入は増えていくと思います。
今後は卓球教室を10カ所くらいで展開することも視野に入れています。スポンサー収入だけに頼らないチーム運営をしていきたいですし、スポンサーばかり優先してしまうと、選手の獲得にも影響が出てきてしまいます。
初年度はもちろんスポンサー収入に頼らなければいけない面も出てきますが、徐々に地域に根ざしたチームづくりをやっていきたいと考えています。地域の方々とコミュニケーションを図りながら成長していければうれしいです」
――沖縄はスポーツの人気が高いのでしょうか?
「実は沖縄は卓球人口が多い地域です。琉球アスティーダはもともと実業団の1部リーグで戦ってきましたが、福原愛選手(10月21日、引退発表)の旦那さん(江宏傑選手)がプレーする時には1500人の観客が集まっています。県民のスポーツへの関心は非常に高く、バスケットボールのBリーグでも琉球ゴールデンキングスが一番盛り上がっていると思います。
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私は琉球ゴールデンキングスのオフィシャルパートナーを務めていて、試合を最前列で観戦することもありますが、実際に見てみると沖縄のスポーツ界に大きな可能性が感じられました。
沖縄は正直、やることがあまりないんです。海で泳いでいるのは県外の方ですし、沖縄県民はあまり海に入りません。紫外線で肌がボロボロになってしまうんです。県民は時間がある中でスポーツを楽しんでいますし、卓球はお金をかけなくてもできるという意味でも可能性はすごく大きいと考えています」
――スポーツ界に進出してみて、どのような点に課題を感じますか?
「スポーツ界にはビジネス的な感覚を持った人間が少なく感じます。営業におけるメリットの出し方や、プレゼンの方法はうまいとはいえません。相手の心を動かしていかない限り、お金は生まれることはありませんし、ふわっとした部分だけを提示して、具体的な話ができない人間は多いです。
最終的に金銭に結びつかないとビジネスとはいえないですし、そのことは社内でも口すっぱく伝えています。途中経過はどうでも良いので、結果を出せば良いからというのが口癖です」
■スポーツ経験ゼロから新たなモデルケースを
――早川さんが考えている今後の琉球アスティーダでの取り組みを教えてください。
「琉球アスティーダは、スポーツクラブとしてマネジメントもやろうと思っています。例えば10人の選手と契約をして、その10人に対してスポンサーを募っていきます。1人の選手にスポンサードしても、体調によって結果が出なかったりするじゃないですか。
それよりも私が面白いと感じる10人でメンバーを固めて、スポンサーを集めて、結果的に1つの競技や1人の選手ではなく、幅広い競技と幅広い選手層を抱えていきたいです。
ベンチャー企業でも、20社に投資して1社が大化けすれば良いですし、スポーツ選手であれば10人、20人のうち1人くらいはブレイクすると思います。そう考えれば、私たちが10人、20人の選手を抱えていて、1人ぐらいは当たるので、その可能性にかけて100万円欲しいといえば、スポンサーをしてくれる企業はあるのではないでしょうか。
卓球の選手はすごく努力しています。ナショナルチームに入って、あれだけの集中力で試合をこなして、世界中を飛び回っている選手も存在します。そういった選手たちに光が当たっていないことに違和感がありますし、ビジネス的に考えれば、しかるべき努力をした人間にはリターンが生まれるはずです。
仮にマイナースポーツであったとしても、しかるべき努力をした選手にはしかるべき報酬を与えるべきです。その仕組みを日本でもつくっていかないと、スポーツをやりたいと思う人間がいなくなってしまいます」
――まずは沖縄県民に愛されるチームづくりを進めていくのでしょうか?
「当然、地元の沖縄県民もターゲットとしていますが、アジアのマーケットへの訴求もすごく大きいです。アジアからインバウンドや物販の収入を得るだけでなく、台湾代表と琉球アスティーダで試合をやることも考えています。
日本で卓球をやっている人口よりも、香港や台湾、韓国、そして中国の方が人口は多いですし、アジアのマーケットにおいて知名度を上げていけば、琉球アスティーダでプレーしたい選手も増えていきます。
そうなれば、選手たちを世界大会にどんどん送り込んでいくこともできますし、エリート集団というイメージもついてきます。試合のエンターテインメント性を高めるためにも、DJや映像の演出もいろいろと考えていますし、沖縄テレビと協力して臨場感のある空間をつくり上げていきたいです。
まずは3億円のスポンサー収入を集めて、チーム運営を健全化するというのが1期目の目標です。卓球界の常識だけでなく、他のスポーツのモデルも参考にしていきたいと考えています。スポーツに関心のなかった私が、スポーツ界に変革を起こして、一つのモデルケースとなれればうれしいです」
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[profile]
早川周作(はやかわ・しゅうさく)
SHGホールディングス株式会社 代表取締役
1976年12月17日生まれ。大学受験直前に父親が蒸発するも、新聞配達で学費を捻出して明治大学に進学。在学中から学生起業家として多くの会社の経営に参画した。元首相の秘書として勉強し、28歳で衆議院選挙に出馬、次点。その後、日本最大級の経営者交流会を主催する。現在は、約90社の顧問やアドバイザーの立場でベンチャー企業を指揮する。また、SHGホールディングス株式会社 代表取締役として飲食店を沖縄7店舗、銀座1店舗のほか、インターネットお花サイト「花々ドットjp」 その他数多くの店舗やサイトを運営。2018年3月、卓球のTリーグ参加チームをはじめ総合スポーツ事業を手掛ける「琉球アスティーダ」を経営する琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社 代表取締役に就任した。業種業界を超えた幅広い分野で活躍している。
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【了】
記事提供:AZrena
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