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日本のスポーツ界の大きなヒントとなるか? MLBが主導権を握るスポーツメモラビリアビジネス

2015年12月18日 コラム Written by 谷口 輝世子

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 試合で使われたボールや、サイン入りの選手着用ユニフォームなどを手に入れたいと願うファンは多い。特に何らかの記録が達成されたり、大一番での試合で使用された物は、より価値があるとされている。

 最近では、マイケル・ジョーダン氏がレギュラーシーズン最後となる試合で着用したユニフォームがオークションにかけられ、17万3240ドル(約2127万円)で落札された。2014年には、ベーブ・ルース氏の1934年当時の日本遠征着用帽子が30万3277ドル(約3724万円)で落札されている。

 スポーツ選手が使用するなど、記念品としての価値がある物品は「スポーツメモラビリア」と呼ばれている。日本には「お宝」の真贋(しんがん)を鑑定するテレビ番組があるが、スポーツメモラビリアを売買するビジネスにおいても、品物やスター選手のサインが本物であるかどうかが重要になる。ところが、1990年代にFBI(連邦捜査局)がスポーツメモラビリアビジネスを捜査したところ、選手や監督らのサインのうち約75%が偽物であることが明らかになったのだ。

 この捜査の結果を受けて、MLB(メジャーリーグベースボール)機構では偽物を排除するため、公式の認証システムを作り上げた。このシステムは、オーセンティケーション・プログラムと呼ばれているもので、2001年から開始され、幾つかの変更を経て、現在のシステムに至っている。

 MLB機構では、品物が本物であることを証明する認証者を全試合に立ち会わせている。認証者の多くは元警官など法執行機関勤務の経験がある人たちで、試合が始まるとグラウンドに近いベンチ横で待機し、ボールやバットなどを収集する。

 例えば、ある選手が記録に関わるヒットを放った場合、ボールデッドの間にボールボーイがこの球を拾い、認証者に手渡しする。認証者は個別識別番号つきの特殊シールをすぐにボールに貼り付け、どの選手が、どのような場面で放ったヒットだったのかを記録。同時に電子機器でも個別識別番号を読み取り、デジタル管理もしている。

 認証者は試合が終わるとロッカールームにも入り、選手がその日の試合で実際に着用したことを確認したうえで、試合着用ユニフォームを収集。試合で使用したベースやグラウンドの土なども同じように集め、これらにも本物であることを証明する個別識別番号シールを貼っている。選手らがサインをするときにも認証者が立ち会う。

 個別識別番号入りの特殊シールを貼った試合球やベース、選手のサインといったお宝は各球場内の売店やMLBの公式ホームページでも球団ごとに販売する。MLB機構自体も、各球団と並んで販売の公式ページを持っており、ここでは引退した選手のサインや、購入したメモラビリアを飾るためのケースなどを販売している。

 販売方法はオークションと固定価格による2通り。固定価格の値段は、各球団が独自に判断して決めている。基本的には各球団が売り上げによる利益を得ることになっているが、年間を通じて何らかのチャリティーに貢献することが義務付けられている。

 このオーセンティフィケーション・プログラムの売上額や、MLB機構や各球団の収益に占める割合などは公表されていないが、デトロイト・タイガースは2008年から11年までにこのプログラムによる売り上げが100%増となっており、ビジネスとしての成長ぶりがうかがえる。

 このプログラムで取り扱われているメモラビリアは、全球団を合わせると年間に50万から60万アイテム。グラウンドの土や単なる試合使用球は数十ドルから販売されており、選手のサイン入り写真は100ドル前後、その他のメモラビリアは数百ドルから千ドル以上の値段で売られている。
推測でしかないが、取り扱っているメモラビリアの平均価格を100ドルと仮定し、年間50万アイテムを販売したとすると、売り上げは5000万ドル(約61億5000万円)となる。

 MLB機構はこのプログラムのパートナーとして、MLB選手会と、メモラビリアビジネスのシュタイナースポーツ、ハイランドミントなどと契約を結んでいる。MLB機構と30球団、MLB選手会のほかに、パートナー契約を結んでいる2、3の業者だけが個別識別番号のついた公式認証商品を販売できるのだ。

 商魂たくましいMLBでは、売れ残りのメモラビリアも無駄にはしない。デトロイト・タイガースではシーズン終了後の11月に「ガレージセール」という大安売りを開催した。

 ここでは、他球団に移籍したスター選手や引退した選手の個別識別番号つき商品を格安で販売していた。トレードで放出したり、移籍したりした選手のお宝商品は球場内の売店や公式ホームページで販売することはできない。しかし、在庫処分市の「ガレージセール」でこれらを売りさばいたのだ。すでにその球団に所属していない選手のグッズを身に着けることは「時代遅れ」感が強いが、今後生産されることのない商品でもあり、買い逃していたファンにとっては最後のチャンス。段ボールやカートに商品を入れてまとめ買いしていく客の姿が目立った。またシカゴ・カブスでは、2015年4月にメモラビリアの販売によって得た利益の全額をチャリティーに充てると発表している。

 MLB機構はファンが偽物をつかまされないようにこの認証システムを作り出した。それと同時に、試合使用球などにもMLB機構のお墨付きという価値を与えることで、原価の何倍もの利益を、外部のメモラビリアビジネスではなく、各球団にもたらすことに成功した。そして、スター選手のサイン一つで大きな利益を生み出す「魔力」を持つビジネスでもあるだけに、その利益の一部であっても全額であっても、慈善事業に生かすことも求められているのだろう。

【了】

谷口輝世子●文 text by Kiyoko Taniguchi
1994年にデイリースポーツに入社し、日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のスポーツ事情をお伝えします。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店、『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)、分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)。


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